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納棺師として 人生の最期を美しく整えるプロの矜持

【対談企画】葬儀の世界のプロに聴く Vol.1納棺師 丸山裕生さん

「対談企画」葬儀の世界のプロに聴く シリーズ一覧

Professional Profile Vol. 1

あまねや

納棺師 丸山裕生(まるやまひろみ)様

https://noukanshi.net/

エンディングドレスを作り始めてから、ご葬儀の世界のさまざまなプロにお目にかかります。どなたも信念や思いを大切にされ、人生のお見送りに向き合っていらっしゃいます。ご葬儀の各分野で活躍されるプロの皆様に、わたくし、杉下由美が直接お話を伺い、blogで「葬儀の世界のプロに聴く!」シリーズとしてご紹介したいと思います。なかなか知られることのないご葬儀のプロの世界にぜひ触れてください。

初回にお話を伺うのは、フリーランスの納棺師、丸山裕生(まるやまひろみ)さんです。大学を卒業後、納棺師の専門会社に約15年勤務したのち、2018年、フリーランスの納棺師として独立されました。納棺師歴19年の丸山さんに、お仕事の内容や心掛けていることなどを伺いながら、私たちが納棺師の方にリクエストできることも、教えてもらいました。思いがけず、さまざまな願いを叶えていただけるとわかり、驚きました。

 

心の炎が消えることはなかった天職との出会い

杉下

丸山さんは、どうして納棺師になられたのでしょう? 何かきっかけがあったのでしょうか?大学を卒業したばかりの若い方が最初に選ぶ仕事としては、大変珍しいと思ってしまいました。

丸山

もともと、働くなら「人を助ける仕事がしたい」という思いがありました。はじめは、人の幸せに関わるブライダル業界への就職を考えていたのですが、結婚式というのは、誰にとっても幸せの絶頂のときですよね。誰かの幸せに関わるお手伝いをするなら、「自分自身がその方たち以上に幸せでなければ、幸せに水を差してしまいそう…、私には自信がない」となぜか思ってしまったのです。そこで、発想のベクトルを逆に向けました。誰かを亡くして「悲しい」思いをされている方に寄り添い、幸せ度でいえばマイナスからできるだけゼロのレベルまで近づけるようサポートすることが、私にあっているのではないかと考えました。

葬祭業界のことを調べていく中で、納棺師を養成して派遣する会社を見つけて、初めて「納棺師」というお仕事の存在を知りました。両親は、ご遺体に直接関わる仕事と知って猛反対しました。私は2003年入社なので、映画の『おくりびと(2008)』はまだ公開されておらず、今よりはずっと理解されていない仕事だったと思います。

入社して納棺師として仕事を始めると、あらためて大切な方を亡くして悲しみの中にいらっしゃるご家族に寄り添うお仕事に、「これだ!」という強い思いがわきあがりました。15年間の会社勤めを経て独立をして、納棺師歴は19年になりますが、一貫して心の炎は消えることはありません。

 

最期のときを整える納棺師という仕事

杉下

丸山さんの信念が伝わってくるお話ですね。今でこそ『おくりびと』やドラマなどで納棺師という存在は知られるようになりましたが、それでも専門職というよりは葬儀社のスタッフの一員、という認識のような気がします。具体的には、どのようなお仕事をされているのでしょうか。

 

 

丸山

ご葬儀は、ご遺族の悲しみを癒やすグリーフケアとしてとても大切です。そのお身体をご家族が知っている生前の状態にできるだけ近づけるようにするのが、納棺師の仕事です。

納棺師は葬儀社からの依頼を受けて葬家様に伺い、ご遺体を生前のお姿に近づけるよう、お化粧や修復、着付けを施して整えます。お元気なころの顔付きやお顔の色味、髪形や、全体の雰囲気など、ご家族とお話をしながらご希望を確認していきます。お話はもちろん、お写真などを見せていただくと、納棺師はとても助かります。

そして、最期の衣装にお着替えをさせていきます。納棺師はほとんどの服を着つけることができます。生前に愛用されていたお洋服は多いですね。

趣味の社交ダンスのドレスやお気に入りの着物、男性はお仕事に情熱を注がれていたころのスーツをお召しになることもあります。できるだけ生前に近い姿となるよう故人様の最期のときを整え、ご遺族が心ゆくまでお別れができるよう、心掛けています。

 

ご逝去直後のエンゼルケアとは違う、ご遺体のプロだからこその処置

杉下

亡くなったその直後から、最愛の家族とできるだけ長く一緒にいたい、美しい状態でゆっくりお見送りしたいという思いはどなたにもあると思います。今はドライアイスだけでなく、エンバーミングや気化する薬剤などの技術で、傷まないご遺体とできるだけ長くお別れの時間をもつ選択肢もありますね。

 

丸山

ご遺体をできるだけ美しい状態で…というご希望は増えています。エンバーミングは、もともとは海外の宗教観に基づき、「復活のためにBODYを残す」という思想から生み出された技術です。日本では50日以内に火葬することが条件で、エンバーミングが認められています。私がこの業界に入った当時、必ず火葬をする日本では流行らないだろうといわれていましたが、この20年間で増えてきたと感じます。

特にエンバーミングまでしなくても、美しい状態を作るために納棺師ができることはたくさんあります。

納棺師が行う具体的な処置は、

・口と目を閉じて、ふくみ綿などでふっくらとしたお顔付きにする

・着付け+宗派による旅支度

・産毛、髭剃り

・ドライシャンプーと整髪

・顔色を整える(フューネラルメイク)

・保湿

などで、これらの処置を約1時間から1時間半で行います。ご闘病で痩せてしまったお顔を直したいというご要望は、特に多いです。美容注射に似た技術を使う場合もありますよ。

 

杉下

短時間でこれだけのことを行うのですね。家族が見ていてもよいのでしょうか。

 

 

丸山

もちろんです。お着替えや保湿クリームを塗っていただくなど、ご家族にお手伝いしてもらうこともあります。ご遺体は生きている身体とはまるで状態が異なり、どんどん乾燥して変化が進みます。変化を抑えるには、特に保湿が重要です。ご家族にはできるだけ保湿ケアをお願いしたいところです。市販のクリームで構わないので、お顔や首、手、唇などに油分を補っていただくだけでも、ご遺体の状態を保ちやすくなります。ご遺体は血液がさがり、お顔に血の気がなくなってしまいます。できるだけ生前のお姿に近い状態にするためにも、女性に限らず男性もナチュラルなメイクは施した方がよいと思います。

杉下

病院の看護師さんがエンゼルケアでお化粧をしてくれたのでメイクは不要、と思われている方もいらっしゃるのではないでしょうか?

丸山

看護師さんが行うエンゼルケアは、あくまでも亡くなられたときに施すお身体の保全がメインで、お化粧は日常のお化粧と同じ感覚です。ご遺体の状態は刻々と変化します。お顔は特に変化しやすく、通常のお化粧をするエンゼルケアだけでは最終的にお顔色が変わってしまうこともあります。

看護師さんが看護のプロであるのに対し、納棺師はご遺体のプロです。火葬の順番待ちなどでは長い期間ご遺体を保存する必要があります。火葬までの間のご遺体の変化を予測して、お身体の状態を保つ期間をしっかり把握したうえで、変化を抑える処置をするのが納棺師の仕事です。ご遺体の変化も納棺師の役割も、ほとんどの方は知らなくて当然ですが、これからはもう少し知っていただく努力をしないといけませんね。

 

シンプルで個性を発揮した葬儀は可能

杉下

グリーフケアのためにもお別れのセレモニーはとても大切です。でも、いざ葬儀を行うとなれば、どうすればいいかわからないから葬儀社のプランにお任せ、というケースが多いと思います。心情としてとても混乱している時間の中、プランに入っていることは本当に必要か?必要ではないものも含まれているのではないか?と、内容を理解するのは大変ですよね。納棺師さんのお仕事を理解しているとして、もしプランに入っていないときには、自分で手配したいと思われる方もいらっしゃるのではないでしょうか。丸山さんはフリーで活動されていますが、個人から直接依頼を受けるケースはありますか?

丸山

数は少ないですが、あります。私たちの仕事は葬儀社からのご依頼がほとんどですが、最近は葬儀社に「直葬」を依頼しながら、メイクやお花はご家族ご自身で手配される方もいらっしゃいます。ご自宅で故人様を囲み、ご家族や親しい人でとゆっくり過ごすお別れを、告別式の代わりにされる方もおられます。故人様の好きだったウナギを皆さんでいただきながら、思い出を語り合うことでお別れの場とする方もいらっしゃるのです。

「葬式不要、戒名不要、墓もいらない」と言われる方でも、ご家族にはお別れの時間が必要ですから、オリジナルで考えていただいてもよいと思うのです。そんなときに、納棺師を呼んでくださればお身体とお顔をきれいに整えることができます。私たちプロを使うことで、故人様とご葬家様にふさわしい新たなお見送りを考えていただくことができるのではないでしょうか。また、最近はお寺からのご依頼もあります。主に檀家さんがいらっしゃるお寺ですが、もはやお寺さんが葬儀社となりご葬儀を行うケースですね。

今、従来型のご葬儀だけでなく、家族葬など参列者が親族だけのクローズドな葬儀、お通夜から初七日までを一日で行う一日葬、直葬など、ご葬儀の形は多様化しています。コロナ禍で加速した感がありますが、特に最近は簡素な葬儀が好まれています。家族葬はその典型ですね。

納棺師の仕事はオプションになることも多く、明記されていないこともあるので、納棺師の役割を知らないまま選ばれない可能性があります。「着せたい服があったのに着せてもらえなかった」というお話を伺うことがありますが、知らないうちに納棺師を入れないご葬儀を希望されたケースかもしれません。「費用を抑えたいのだろう」という葬儀社の思い込みから、私たちの仕事が案内されないことがあったら残念です。お式がシンプルであっても、ご遺族の個性やポリシーは発揮してよいのです。ご家族だけでお別れするときも、ご遺体を整えるプロの仕事を加えていただき、思い出に残る上質なお別れの時間になるといいなと思います。

 

見せかけではない本当に美しい光の庭のエンディングドレス

杉下

丸山さんには、光の庭のエンディングドレスをご覧いただきましたが、いかがでしょう? 率直なご感想をお聞かせいただけますか?

 

 

丸山

光の庭のエンディングドレスが、「寝ている状態」を前提に商品を見せていて、他社のドレスとは異なることにまず感心しました。そして何より美しい。見せかけの美しさではなく、本当に美しい生地、レースをふんだんに使っていらっしゃるのだと、実物を拝見してあらためて感動しました。

 

杉下

人生を讃え、ハレの旅立ちを演出する美しいドレスをイメージしてデザインしています。寝ている方にお召しいただくことが、普通の服と大きく違う点です。型紙も縫製も作り方も、通常の衣服とは全く違うコンセプトで制作しています。例えば参列者は、故人のおへそのあたりからお顔を見ますよね。見上げるように見るという参列者の視点を前提に、デザインに工夫をこらしています。そして、ご家族や納棺師さんたちが着せやすいよう、細部にさまざまな工夫をしています。ほかにもまだまだ工夫している点はあるのですが、話が長くなりそうです(笑)。

丸山

お袖も手を通しやすそう…。実際に着せる体験をしながら、エンディングドレスの工夫のポイントを知りたいです。納棺師は、普通の服は着せ慣れていますが、光の庭のドレスは工夫されているので初見で着せるのは逆にわかりづらいかもしれません。着せやすさのポイント、どの点に注意すれば最も美しく見えるようになるかなど、着付けの説明書があるといいですね。

杉下

なるほど、それは重要なポイントですね。ご家族でも着せられるようにと製作していますので、説明書については考えます。動画を用意してもいいかもしれません。

 

丸山

これだけ美しいドレスであれば、やはり「魅せる美しいお着せ替え」の手法を考えてみたくなります。納棺セレモニーにしてもいいですね。実は、故人様のお着替えをご家族と一緒にすると、達成感で場が一つになる空気が生まれるのです。すべてをご家族が着つけることは、ご遺体の状態にもよりますし、お気持ちの部分でもハードルが高いかもしれません。エピローグドレスを購入して、美しく着つけてメイクも施す納棺師をご紹介できるプランがあってもよいのではないでしょうか。

 

杉下

そういえば、実際にご要望がありましたね。遠くの病院で亡くなられたご家族に、エンディングドレスを着つけて葬儀まで付き添っていただける方をご紹介してほしいと。そのときは私自身、まだ葬儀業界にネットワークが少なかったのですが、それでもなんとかご縁をたどって丸山さんにご相談させていただきました。

 

丸山

そうですね。今までにない、特殊なケースでした。ぜひご一緒に、葬家様のお役に立ちたいと思いましたので、お引き受けしました。これからもいろいろなご要望があると思いますが、精一杯お応えできるよう頑張ります。

 

杉下

最後に、納棺師としての丸山さんの想いを教えていただけますか。

 

丸山

ご遺体は故人のお身体であり、命の学びを実体験として得られる場です。「死」を受け入れ、自分の中に落とし込んで感情を閉じ込めておかない、それが悲しみに折り合いをつけるグリーフケアです。ご家族それぞれのお考えはあると思いますが、生き抜いたご家族の最期に、できるなら小さなお子様にも立ち会ってもらえたらなと思います。

私は、ご遺体は故人からの最後のギフトだと考えています。だからこそ、お見送りの場はできるだけ美しく整えられた状態にしたいというのが私の願い。おひとりおひとりの人生の終わりに立ち会うことで、日々学びを得られる納棺師という仕事は、私の天職です。

 

杉下

やっと今は自分なりに考えたプランで、故人にふさわしいお見送りができる時代です。私たちの力をどんどん活用してほしいですね。丸山さん、今日はありがとうございました。

取材:2022年4月

文中敬称略