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2022年07月

「世界から悲しみをなくしたい」その想いで、旅立ちの姿を整える道具を創る

【対談企画】 葬儀の世界のプロに聴く Vol.2    

ご遺体処置用品専門企業 代表 岩田壮一郎さん

「対談企画」葬儀の世界のプロに聴く シリーズ一覧

 Professional Profile Vol. 2

イワタ株式会社

代表取締役 岩田壮一郎(いわたそういちろう)様

http://www.medical-iwata.co.jp/

 

ご葬儀の世界のさまざまなプロが、信念や思いをもって、人々の人生のお見送りに向き合っています。あまり触れる機会のない葬儀の世界のお話を、わたくし、杉下由美が直接プロにお話を伺う、「葬儀の世界のプロに聴く!」シリーズ。2回目となる今回は、葬儀用の処置用品を取り扱う、イワタ株式会社代表の岩田壮一郎(いわたそういちろう)さんです。フューネラルケアの専門用具やエンバーミング用の薬剤など、ご遺体を整えて修復する商品を扱われる岩田さんに、故人とのお別れの際にとても重要なご遺体の扱いについてお話を伺いました。

 

ブルックリン風のスタイリッシュなオフィスから発信される、葬儀用衛生用品

杉下

岩田壮一郎さんとは、先日のフューネラルビジネスフェアでお目にかかりましたが、初めましての席で大いに話が盛り上がりました。今日は、より踏み込んだお話を伺いたく、会社にまで押しかけました(笑)。NYのブルックリンにある倉庫オフィスをイメージされたと聞きましたが、ワンフロアでとてもカッコいいですね!

岩田

ありがとうございます。昨年(2021年)に、こちらに移転しました。社員同士がコミュニケーションをとりやすい、オープンな職場環境になりましたよ。

杉下

今日は、ご遺体の処置用品を専門に取り扱われている岩田さんに、特に「ご遺体の保全」という切り口でお話を伺おうと思ってまいりました。おそらく、ほとんどの方が知らない世界だと思います。まずはイワタ株式会社の事業を、簡単にご紹介いただけますか?

 

 

岩田

イワタは、葬儀業界の方々がご遺体保全のために必要とする衛生用品や道具を取り扱っています。具体的には、葬儀用の脱脂綿やエンバーミング薬剤、ご遺体用メイク用品、消毒薬剤などです。法人対象のお取引が中心ですが、フリーで活動される納棺師の方向けにECサイトも運営しています。コロナ禍で需要が高まった除菌剤などは一般の方にもご利用いただいています。

https://medicaliwata.thebase.in/

 

目標は「世界から悲しみをなくすこと」

杉下

岩田さんは、「世界から悲しみをなくしたい」という思いを掲げて、お仕事に取り組まれていると聞きました。詳しくお聞かせいただけますか?

岩田

大切な方との永久(とわ)のお別れは、とても悲しいことです。特にご遺体が、闘病や事故などで痛ましい姿になっていれば、お元気だったころを知る方々にとっては、そのお姿の違和感に、さらに悲しみを強くしてしまうでしょう。

私たちは、お見送りの際に、故人をできるだけ元気なころのお姿に近づけるための商品を提供しています。お別れの場の「悲しい違和感」を少なくすることで、喪失の悲しみを少しでも和らげたいのです。

 

故人が主人公のストーリーを大切にしたい

杉下

私がエンディングドレスの「光の庭」を立ち上げたきっかけと、原点がとても近いところにあると感じました。若くして亡くなった友人の葬儀に伺った際、ご遺体には妻の手で阪神タイガースのユニフォームが着せられていました。彼のタイガース愛から話が広がり、どれほど人生を楽しんでいたか、どれだけみんなから愛されていたか、悲しみに沈んでいた場が和やかな雰囲気になり、故人を囲んで彼を讃えるたくさんのお話が交わされました。服にはその人を表現するストーリーがあると、強く認識した瞬間です。私は長年、企業PRのコスチュームデザイナーで、コンセプトやストーリーを、「衣装」という形にするプロです。最期の死装束は故人の人生を讃えることができる、見送る側もHappyになる、衣装にはその力がある! 沸き上がったその思いが、エンディングドレスに取り組むきっかけとなりました。

岩田

とても共感しますね。誰にも人生のストーリーがあります。故人のストーリーを語る場、笑ってお見送りできる場があることは、グリーフケアの一環としてとても大切です。もしその時に、故人のお顔がまったくの「別人」になっていたらどうでしょうか?ショックですよね。「かわいそうだった」「苦しかっただろう」、という悲しい気持ちの方が強くなってしまいます。

お別れの際、みんなのイメージの中にある元気だったころの姿にできるだけ戻せたら、自然に安らかで和やかなお別れの場をつくることができるのではないかと思います。誰もが迎える最期の時こそ、ご本人が主人公であってほしい。旅立つご本人が主人公であるストーリーをみんなが思い出し、語り合いながらお見送りできるようにしたいという思いが仕事の根底にあります。

イワタでは、最新の技術でお顔を復元できる造形剤やお肌の状態を整える保潤剤、メイク用品など、葬儀のプロが求める確かなクオリティの品を探して、開発して、提供しています。

 

現場の声に応え続けてできあがった商品ラインナップ

杉下

家族でゆっくりお別れしたいと家族葬が好まれるように、葬儀の形も変わってきています。エンディングドレスを購入されるお客様の中には、美しいドレスに身を包んだ故人と、できるだけ長く一緒に過ごしたいと願う方もいらっしゃいます。でもやはり問題は、ご遺体の保全です。葬儀社も尽力されていると思いますが、少しでもご遺体が傷むのを遅らせるために、家族も使えるタイトスクラムスプレーやタイトスクラムエアがお役に立つのではないかと思い、光の庭でも取り扱いを始めました。

https://www.hikarinoniwa.co.jp/shop/products/list.php?category_id=132

岩田

イワタのタイトスクラムは、除菌、防腐を目的とした衛生用品です。扱いやすく効果が長持ちするため、コロナ禍では広く一般からも除菌効果を求めて引き合いがあり、インターネットで通信販売もしています。

実際に葬儀業界で使われているものを、一般の方に使えるように小分けしたものを用意しました。家族葬などで故人に寄り添うときにお使いいただけるとその効果を実感してもらえると思います。

あと、ご遺体専用の顔パックや湿潤剤も提供しています。これを使うだけでもご遺体を乾燥から守り、変形を遅らせることができます。シートタイプの顔パックは、年間12,000セットも使われている人気商品なんですよ。納棺師さんにも好評です。なにより、ご遺族が喜ばれるそうです。「お父さん、お顔がツヤツヤね。」って。

実はイワタは先代まで、処置用の脱脂綿一つで商売をしていたのです。私が入社してから、葬儀の現場に出かけて直接声を聞くと、「こんな製品がほしいが、今はないので、手に入るものを工夫して使っている」または「海外からわざわざ取り寄せている」といった声があり、ニーズがあるならイワタが扱えばよい、と考えました。それからエンバーミングの薬剤を輸入したり、必要な道具を新しく開発したり、メーカーを探して仕入れたりすることを続け、今ではご遺体処置に関わる商品全般を扱う、全国でも唯一の会社になりました。

 

ペットを見送る際の亡骸の保全について

杉下

実は、展示会で岩田さんとお話をしたきっかけは、展示ブースでペットの葬送の発信をされていたからです。光の庭でもペットの葬送品に力を入れており、愛するペットとのお別れの時間をできるだけ長く美しく過ごしたいと願うご家族のために役立つアイテムがないか、展示会でアンテナを立てていました。

岩田

ペットの葬送に関する事業は、今まさに立ち上げようと準備しているところです。こちらは一般消費者向けになりますので、まずはSNSなどを使って、一般の方のご意見や要望をリサーチすることから始めています。

展示会で杉下さんに会えたのもまさにご縁ですね。

杉下

そうですね。どうしても、ペットのお見送りには、葬儀社さんが関わらず、飼い主さんだけの場合も多いので、ペットのご遺体の保全が大きなテーマだったんです。薬剤とコットンフラワーのセット展示にフラフラと吸い寄せられていきましたから。私も良いご縁だと思いましたよ(笑)

イワタさんでは薬剤の取り扱いでエンバーミングにも深く関わられていますが、ペットのエンバーミングについてはどのようにお考えですか?

岩田

エンバーミングは、血管を利用して血液と防腐剤を完全に入れ替えることで、ご遺体の保全・修復ができる優れた技術です。エンバーミングにより、毛細血管まで防腐液が浸透すると、ご遺体は消毒・殺菌されると同時に、皮膚の表面が生前のような色合いでふっくらと美しくなります。

日本では、IFSA(一般社団法人日本遺体衛生保全協会)に所属する企業ならびにエンバーマーにより、厳格なルールのもとで施術されます。あくまでも人間を対象としており、IFSAは動物に対してエンバーミングはしていませんから、今「ペットのエンバーミング」と言っているところは、同等の優れた技術でも、この言葉は使えないので、違う名前ではじめられるかもしれませんね。

エンバーミング先進国である米国のあるエンバーマーに聞いたところ、「ペットも技術的には可能だが、ペットの場合はエンバーミング効果(見た目の変化)が毛で覆われていてハッキリしないので、ニーズはほとんどない」との話でした。

杉下

なるほど。米国では「外観を生前に近い形で保全する」という意味で、エンバーミングをとらえるのですね。私は、「愛するペットと1日でも長く一緒にいられるよう、腐敗を遅らせたい」というニーズがあるのではないかと思うのですが。

岩田

実際に施術するとなると小さな身体で細い血管で施術も高度なテクニックが必要で今はペット用の施設もない状況です。

腐敗防止の観点から需要はあるかもしれませんが、エンバーミングも「永遠」というわけにはいきません。長く保つには薬液の交換などのメンテナンスが必要で、現実的ではないと思います。

 

杉下

そうですか、まだまだ難しいですね。愛する家族に、精一杯のことを「してあげる」ことは、グリーフケアにつながると思います。なにか、セレモニーをすることも、「してあげる」ことで、悲しみを癒す力になりますね。ペットの葬儀も執り行うところが増えていますし、ペット仲間で花を送ったり、弔問に訪れたりしています。

自宅安置イメージ(ぬいぐるみモデルによる商品撮影)アポテオーズ光の庭

 

岩田

ペットとのお別れについて皆さんにお話を伺うと、人間の葬儀のように人が集まることは少なく、SNSや動画などを通じて弔意を示すことが多いのです。当社のペット事業では、今までの商品開発とはまた違う「しくみ」「サービス」の提供を開発しています。

杉下

光の庭でも、レクイエムギフトとして美しいポーチを用意しています。ペットの大好きなおもちゃやおやつ、メッセージを入れて一緒に送り出してもいいですし、思い出の品を入れてそばに置いてもいい。悲しみの中にいるご家族の方に寄り添うギフト用品として、お供物や供花の様に贈って、弔意を表すのにご利用いただければと思って製作しました。

岩田

それはステキなアイデアですね。自分の経験からも、ペットの死は本当に悲しい。ちゃんとしたお別れができるかどうかは、その後の生活に大きな影響を与えます。イワタの事業としても、生きとし生けるものに対して、大きなグリーフケアにつながる事を意識して チャレンジしていきたいです。

杉下

ペット用品のお見送りのアイテムに関しては、大人の美しいデザインの品物がない!というのが私の率直な感想です。供養品はたくさんあるのですが、お見送りの品物自体がほとんどないんです。なので、人間のエンディングドレスと同じ気持ちで、愛にあふれたお見送りのドレスやグッズを開発しています。お棺にしても、ここ数年でペット専用の段ボールの物が出てきましたね。光の庭では、抱きしめられるドレスの様に美しいお棺を企画、開発中です。沢山の選択肢の中で選んでほしいです。

岩田

それぞれのご家族で、自分たちにふさわしいご葬儀をクリエイティブする時代に変わってきていますね。そのための選択肢を用意したい。それは人間に向けてもペットに向けても同じ発想でありたいですね。

古い慣習、体質の業界に風穴を

杉下

古い慣習、体質が残る葬祭業界の会社の中で、イワタさんの会社の雰囲気はとても若々しくて、新しい発想がどんどん生まれそうな気がします。今、社員の方は何名いらっしゃるのですか?

岩田

パートを含めて全従業員は20名で、社員は現在6名、新卒入社のメンバーが中心なので、みんな若いです。来年も新入社員を数名迎え入れる予定です。

杉下

人材難といわれるこの時代に、それはすごい!

岩田

入社面接がユニークなんですよ。面接ではワークショップを組み合わせて、「この会社で新しい商品またはサービスを立ち上げてみよう」という無茶ぶりをします(笑)。実は、ペットの葬送事業は、面接のワークショップから生まれたアイデアを具現化するものです。入社時に企画、プレゼンした社員が主体となり、事業立ち上げを準備しています。

杉下

イワタさんは老舗企業でありながら、若い方の発想力が、新事業の原動力となっているのですね。

 

岩田

そうですね。当社は来年で創業85周年を迎えます。1938(昭和13)年に祖父が創業した岩田商店が始まりで、2代目の父は、脱脂綿を中心に葬儀に必要な衛生用品を取り扱ってきました。私はもともとは自分で起業をしようと考えていました。そのために必要な「人・モノ・カネ・情報」を学ぼうと、いくつかの企業に勤めました。35歳の時、自分で起業するのもよいが、父の会社の行く末をふと思い、2015年にイワタに入社しました。父は私に会社を継がせる気がなく、入社前から入社した後も常にぶつかり合ってきましたが、2019年6月に私が代表取締役社長に就任し、事業を引き継ぎました。

イワタ株式会社という公器を使って何をするか。私が代表となってまず行ったのは、現場を知ることでした。納棺師の方々とともに葬儀の現場に出向き、悲しいお別れの現場に立ち会うことで、ご遺族の想いやその悲しみを和らげようと奮闘する納棺師の方々の姿を目に焼き付けました。

「世界から悲しみをなくしたい」という思いがわき上がり、現場のニーズを拾い上げながら製品を企画し、必要なものは輸入するなど、すべて現場で求められる声から取扱製品を増やしてきました。優れた製品を提供することは我々の使命です。そして製品を使う現場の方々の技術力向上も必要だと考えています。葬儀の現場を担う人たちの間に、技術格差や情報格差をなくすために、情報を共有し学びを深められるような仕組み(SNS)も構築しようと奮闘しています。

杉下

アイデアを形にする迅速な判断、行動力と、若い力を伸ばそうという社長の岩田さんの采配が、葬送業界に新風を吹き込むような気がしてワクワクします。

岩田

今回の対談を通じて、杉下さんが目指す事業の方向性やベースにある考え方がよく分かり、私が描いている世界観と非常に近いものを感じました。これからの杉下さんのチャレンジにも、大変興味があります。これからも情報共有しながら、勉強を重ねて、何かの形でコラボレーションを試みたいですね!

杉下

私も岩田さんのお話にとても共感しました。それとともに、新しい視点とアンテナで古い体質の業界に風穴をあけようとされている姿勢に、とても刺激を受けました。葬儀の世界は急速に変わっています。葬儀の在り方も、まだまだ大きな変化の途中の様に思います。この流れに向かうための心強いヒントをいただきました。本日は、ありがとうございました。

 

取材:2022年7月

文中敬称略

 

 

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Vol.1 あまねや 納棺師 丸山裕生(まるやまひろみ)様

https://www.hikarinoniwa.co.jp/blog/2355/

抱きしめられる小さな棺、開発中

私の頭の中には常にいくつかのアイデアが浮いています。ドレスの事、アクセサリーの事、お届け方法やパッケージの事など、プカプカとアイデアの種が浮いています。

その中の一つで、5年前から考えているのですが、抱きしめられる小さな棺を作りたいのです。

 

アイデアが、けっこう具体的に固まってきたので、サンプルを作ろうかな?と思って、材料を集め始めていました。麦わら帽子の素材を使って、くるんと包み込んで腕に抱けるイメージです。

麦わら帽子を買ってきて、試作してみます。ナカナカ最初にしてはいい感じです。

出産後、退院するときのセレモニードレスの様な、愛らしさと華やかさがお棺にもできるといいな、と思っています。

小さな棺は死産の赤ちゃんのための棺です。手のひらに載るほどの小さな身体。小さくて、皮膚も骨も弱くて抱っこをすることが出来ないんです。

だから、抱きしめられる小さな棺を作りたかったの。

写真は第一号試作品です。

 

 

そんなふうに試行錯誤をしている中、千葉の住吉さんが「まゆのゆりかご」という、紙を貼り合わせ絹を内側にふわりと入れた、素敵な抱く棺を発売された新聞記事を見ました。

早速、お店に出かけて見させてもらいましたが、よく考えられていて素晴らしい棺でした。

 

https://bee-s.net/smp/item/A8880007O.html

彼女のお店は、子供の仏具屋さんです。子供を失くした方たちのネットワークがあって、グリーフケアの活動もされています。

 

すっかり刺激を受けて、前から調べていた帽子の会社に連絡して、ただいま製作の段取りをとっています。

この週末は、広島の尾道まで打ち合わせに行ってきました。沢山の材料と工場、そして帽子のプロの方たちとのディスカッションの上、デザインや素材が決まりましたよ。

サンプルが届くのは、7月の中旬。もう、今から楽しみです。