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【対談企画】葬儀の世界のプロに聴く

生演奏で故人様ゆかりの音楽を奏で、心が通うご葬儀に

【対談企画】 葬儀の世界のプロに聴く Vol.4
 
葬儀専門音楽事務所アシェル 佐々木瑛永さん
 

「対談企画」葬儀の世界のプロに聴く シリーズ一覧

Professional Profile Vol. 4

株式会社アシェル

佐々木瑛永(ささきあきひさ)様

https://www.assurel.info/

ご葬儀の世界にはさまざまなプロがいて、それぞれに信念や思いをもって、人生のお見送りに寄り添っていらっしゃいます。あまり触れる機会のない葬儀の世界のお話を、わたくし、杉下由美が各分野のプロにお話をうかがう、「葬儀の世界のプロに聴く!」シリーズ。

4回目は、葬儀専門の音楽事務所として全国でプロの演奏家を派遣する仕事をされている、株式会社アシェルの佐々木瑛永さんです。このお仕事を始めたきっかけや想いについて、うかがいました。

 

「故人が好きだった音楽で見送りたい、生演奏で偲びたい」の声に応えて

― ご葬儀に演奏家を派遣されていると聞いて、とても興味がわきました。しかも、ご葬儀専門の音楽事務所ということで、尖ってますね(笑)

エンディング産業展では、実際に「光の庭」ブースで演奏をしていただいて、あまりの演奏のレベルの高さにびっくりしました。

 

 

佐々木

ああ、あの時はありがとうございました。演奏の機会を頂きました。

あのフルート奏者は海外のコンテストなどで賞もたくさん取っているプロなんですよ。生で聞く演奏は、まずは経験していただくのが一番だと思って、「光の庭」さんの展示会ブースで演奏させてもらいました。

フルートひとつだけでも、その場を魅了する力があります。実際に、空気が震える感じがしませんでしたか?皆様、意外に生で演奏を聴く機会がないので、フルートやバイオリンの音色に直接触れると、その力強さに驚かれます。それは、CDの音楽に慣れていると味わえない音楽の魅力です。

 

― ほんとに、本気のプロのすごさがわかりました。そのような演奏家の方々が所属されているのですね。それにしても、ご葬儀専門の音楽事務所は、どのようなきっかけで始められたのですか?

 

佐々木

アシェルは、うちの創設メンバーがご葬儀専門にと強い想いをもって始めた音楽事務所です。この仕事を立ち上げるために、音楽事務所から大手の葬儀社に勤めて、ご葬儀の場で求められる音楽を探ってきました。たくさんのご葬儀をする中、厚生労働省が認定する「1級葬祭ディレクター」の資格も取っちゃいました(笑)本気で葬儀に取り組んでいましたから、とれちゃうんです。

えっと、そこでも 「音楽でお見送りしたい」というリクエストが増えていることに気付いたのですが、葬儀社ができるのはCDで音楽を流すことくらいでした。故人様を偲ぶ音楽が生演奏で出来たら、もっとハートフルな雰囲気の中で、お別れができるのではないかとの思いを強くしました。音楽を中心にしたご葬儀だってできますよね。

もともとの音楽事務所とのつながりがあり、その事務所は主にテレビ番組やイベントに演奏家を派遣しています。演奏家にとっては、それぞれの演奏活動の他に、仕事を紹介してもらえる窓口です。葬祭関連の依頼も来ていたのですが、ご葬儀ならではの配慮や急な依頼への対応に困っていて、音楽事務所も葬儀業界でのお仕事に不安や悩みがありました。

 

 

 ― そこで、創設メンバーの方が、ご葬儀のプロになって、間に入られたのですね。

 

佐々木

そのとおりです。そのために葬儀の現場を経験してきたんです。頑張りすぎて葬祭ディレクターにまでなっちゃいました(笑)。

現場に入って改めてわかったのですが、葬儀社も音楽の手配はまったく畑違いのことで、どのようにすればいいかわからずにいました。葬儀社も不安だったんです。

故人様の好きな音楽をCDではなく、生演奏で…とご遺族様に依頼されても、頼む先がわかりません。また、故人様との大切なお別れの場を台無しにしないよう、それなりのマナーと演奏技術を持つ人に来てもらえるのかという不安があります。楽器ができれば誰でもいいわけじゃないんです。その調整役となって動いたことが、アシェル誕生のきっかけです。

そして、この活動は音楽事務所に登録する演奏家の皆さんにとっても、悪い話ではありません。演奏会のスケジュールは、たいていかなり前からわかっています。ご葬儀の仕事は昼の時間帯なので、演奏会などとバッティングしないで活動できることもあり、新たな収入として期待できます。アシェルとしては、演奏の機会を多く作ることで、少しでも演奏家たちの活躍の場が増えたらいいと考えました。

 

 

― 葬儀社にとっては新たな音楽の提案になり、演奏家にとっては演奏の機会が増える、まさにWin-Winの関係ですね。

 

佐々木

そうなんです。音楽事務所はご葬儀の世界にご縁ができて、葬儀社は「生演奏」をお客様にご提案できます。私たちが間に入って、ご葬儀にふさわしい演奏家を派遣し、ご葬家様の気持ちに寄り添ったお別れの場をつくろう、葬儀の自由度を高めようという思いで、2019年11月に「アシェル」を立ち上げました。まあ、よく言われるのですが、「葬儀専門」は音楽事務所としてはかなり尖ったコンセプトですよね(笑)。

3つの楽器に絞り、全国翌日対応を可能に

―それにしても、全国に演奏者を派遣されているのはすごいと思います。事務所を始めてからすぐに全国で展開できるとは驚きです。

 

佐々木

ここでは葬儀業界でのネットワークが活きています。「小さなお葬式」をご存じでしょうか? 今の時代に求められて、全国で大きく成長しているご葬儀です。「小さなお葬式」とタイアップすることで、一気に全国47都道府県で展開できるようになり、いきなり全国規模でスタートすることになりました。

 

― え~。それは大胆ですね! でも、そんなにたくさんプロの演奏家を全国に手配できるのですか? ご葬儀の場合は急なご依頼も多いと思います。どのようにしているのですか?

佐々木

基本はチェロ、フルート、バイオリンの3つの楽器に限定して、奏者を一人派遣しています。それで翌日対応に100%お応えできる体制を作りました。全国に演奏者がいて、楽器も小さいので特別な搬入も広い場所もいりません。急なご要望の葬儀に対応できています。

アシェルに登録している演奏者は、全員が音楽大学出身でオーケストラ経験があり、コンサートやエンタテインメントの世界で演奏活動を続けている、現役のプロ奏者です。日本を代表する交響楽団に所属するメンバーや、海外の著名オーケストラに客演する奏者も登録しています。演奏会でお客様を呼べるプロなんです。全員がそうした経験豊富なプロ奏者ですから、現場に応じて臨機応変な対応ができる点も強みです。

 

 

 

― 全員、音楽大学出身ですか! それほどの演奏者がそろっているとは思っていませんでした。ごめんなさい。

 

佐々木

あははははは。いえいえ、確かに楽器を演奏できる人は世の中にたくさんいらっしゃいますが、音楽事務所が契約して「演奏家として派遣するプロ」は、こういうレベルの方でないと務まりません。安心して頼んでください。

 

― 頼むときは、どのように依頼すればいいのでしょう? 曲数が決まっているとか、結婚式のようにリクエストをリストにして出すとか、いざ頼むとなれば、そのときにはご遺族も時間がないと思いますし…

 

佐々木

ご心配されなくても大丈夫ですよ。そこにも、アシェルがいる意味があります。ご葬儀のとき、ご葬家様がどれだけお忙しいか、よくわかっていますから。

まず、楽器や曲をすべてをお任せいただく「ベースプラン」があります。音楽に詳しくなくても大丈夫です。葬儀と音楽のプロのアシェルにすべて委ねちゃってください。お寿司屋さんみたいですよね「おまかせで!!」って、感じです(笑)あとは、お店の大将に任せちゃって、ゆっくり出来ます。同じ感じです。

たくさんのご葬儀を経験していますので、大丈夫ですよ。アシェルが素敵な音楽を献奏いたします。

 

ご希望の音楽についてご要望がある場合は、アシェルの曲目リストから選んだり、他にもリクエストができたり、楽器を選べたり、演奏者の人数を増やしたりできる「オプションプラン」があります。この場合は、ご相談ください。最適なプランを一緒に考えることが出来ます。プロの目線でアドバイスをいたします。

 

また、急なご要望では難しいのですが、準備の時間やご予算をいただければ、ご希望の楽器編成、例えば歌手や雅楽の手配も可能です。普段はクラシック系、ポップス系のご依頼が多いですね。リストにない楽曲にも対応しますよ。「アニメの曲をずっと演奏してほしい」、「演歌がいい」、他にも和太鼓、サンバ、ジャズ等々、音楽事務所ならではの力量を発揮して、いろいろなジャンルの一流の人を手配できます。まずは、どうしたいのかを教えてください。あとはアシェルができることをご提案しながら、一緒に考えていけます。

 

― 頼もしいですね。まず不可能はないというこの力強さ!!

 

佐々木

えっと、たぶん不可能はあります・・・(笑)。でも、アシェルは音楽事務所のプロなので、ご要望をかなえることに一生懸命取り組みます。ご葬家様の想いをかなえるために会社を始めたのですから、そこは頑張ります!

 

故人との思い出をよみがえらせる音楽の力

―お客様はどのような想いで依頼されるのでしょうか? 特に印象深いエピソードがあればお聞かせください。

 

佐々木

「ご葬儀は、故人様を語る場」であるべきだと思っています。読経が故人様の思い出とつながることは、まずほとんどないと思うんです。でも、音楽は故人様の趣味や嗜好とつながることが多いので、生前の活き活きとしたご本人様を思い出す導きになります。

 

例えば、趣味でフラダンスをされていた方のご葬儀では、ハワイアンの生演奏と歌をリクエストされました。ゆったりとしたハワイアンの素敵な歌声に生演奏が流れる中、フラダンスサークルのご友人が多数参列され、他の葬儀では味わえないような幸せな心地に包まれながら、故人様とのお別れの時間を過ごされました。お人柄がとてもよく伝わるお式でした。

 

ウェルカムルームでマリンバを演奏してほしい、というリクエストでうかがったご葬儀は、まるで結婚式のようでした。「明るく見送ってほしい」との故人様のご意向を尊重され、大好きな曲が生演奏される中、参列者はウェルカムルームでシャンパンを振る舞われるところからご葬儀が始まるパーティで、とても印象に残っています。

 

最近では、映画が大好きだった故人様をお見送りするご葬儀で、映画音楽の生演奏を依頼されました。弔辞を贈られたご友人は、「弔辞を書いてきたけれど、まったく違うことを話そうと思う。今ここで素晴らしい演奏を聴いていたら、君についていろいろなことを思い出した。そのことを語らせてほしい」と、生前の故人様が目に浮かぶようなお話をしてくださいました。音楽を通じて思い出されるエピソードはけっこうあるようで、ご葬儀の場が思い出話で和やかになり、ご葬家も参列者もとても和んで喜ばれました。

 

「葬式の場は忌み嫌う場ではない」葬儀の新常識を音楽で作りたい

 

― 「光の庭」のエンディングドレスも、「その方を表現する美しい死装束があったらいいのに」という思いで誕生しました。故人様の思い出を語るきっかけとして、衣装の持っている力はとても大きいのです。同じ思いですね。

そして、「光の庭」もドレスをご提供して10年が経ちましたが、葬儀のスタイルやニーズも大きく変わってきているなと感じています。

 

佐々木

そうですね。それは同じように感じています。

戦後生まれの団塊の世代の方が、葬儀の形を大きく変え始めています。

葬儀の中身を吟味して必要ない部分を省いたり、新たな希望を取り入れたりしています。忌事(いみごと)、穢れなどのマイナスの感覚はもうありません。決まったパターンにもとらわれていません。今の30~40代の方が喪主様になる時代には、葬儀のスタイルはもっと自由になっているはずです。宗教や葬儀社から離れたお別れも新たに作っていくでしょう。

 

葬儀は、故人様の思い出を語る温かい場であってほしい。悲しみを癒すグリーフケアとして「お別れのセレモニー」はとても大切です。それは読経とセットである必要はなく、もっと自由でいいと思うんです。今は宗教から離れた「音楽葬」という言葉もあります。私たちは音楽を通じて、新しい葬儀の常識を作ろうとしています。プロが奏でる生の音色を間近で聴いていただきながら故人様の思い出を語りあい、大切な方との最期の時間をゆっくり穏やかに、和やかに過ごしていただきたいというのが、アシェルの願いです。

 

― アシェルさんのコンセプトは、愛に溢れていますね。最後に、ブログの読者様が演奏者の派遣をお願いするには、どのようにすればよいでしょうか?

佐々木

「小さなお葬式」の『奏でる生演奏』から手配していただくのが、一番わかりやすいかもしれません。もちろん、当社に直接お問い合わせいただいても構いません。

告別式だけでなく、「偲ぶ会」や「お別れ会」のような場にも呼んでください。ホテルでも公民館でもうかがいますよ。

 

― お付き合いのある葬儀社にお願いするときは、このブログを見せて「ここで頼んでほしい」と伝えても大丈夫ですか?

 

佐々木

もちろん大丈夫です。どちらの葬儀社様でも担当者の方と、直接アシェルが打ち合わせをします。ご葬家様はいろいろとお手配が重なって忙しいですから、葬儀社の担当者様にご希望を伝えてもらえれば、ちゃんと必要なポイントで献奏ができるよう手配します。葬儀のことはよくわかっていますから大丈夫ですよ。もちろん、具体的なお打ち合わせをご葬家様と一緒にすることもできます。たくさんのアイデアを持っていますから、お気兼ねなく相談してくださいね。

 

― 「葬儀の常識を変える、自由度を高める」というアシェルさんの目指す方向は、「光の庭」の考えと同じですね。そのことを改めてうかがうことができ、より一層確信いたしました。

本日はたくさんのお話をありがとうございました。

 

アシェル https://www.assurel.info

代表電話 050-3138-2424

小さなお葬式 奏でる生演奏 https://www.osohshiki.jp/plan/livemusic/

 

 

取材:2022年12月

文中敬称略

 

追記

「光の庭」主宰の杉下の母が、2023年元旦に急逝いたしました。

この取材の原稿をまとめている最中でした。

告別式になる「お別れ会」に、アシェルさんに演奏を依頼し、母を表現する曲を演奏していただきました。

会の様子は、改めて後日掲載いたします。

 

 

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Vol.1 あまねや 納棺師 丸山裕生(まるやまひろみ)様

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Vol.2 イワタ株式会社 岩田壮一郎(いわたそういちろう)様

https://www.hikarinoniwa.co.jp/blog/2728/

 

Vol.3 株式会社WiTHART 石田 賢孝(いしだけんこう)様

https://www.hikarinoniwa.co.jp/blog/3387/

 

「大切な人を、いつも肌に感じていたい」 光り輝く遺骨ジュエリー『TOMONi』

【対談企画】 葬儀の世界のプロに聴く Vol.3

手元ご供養品の製造・販売企業 代表 石田賢孝さん

「対談企画」葬儀の世界のプロに聴く シリーズ一覧

 Professional Profile Vol. 3

株式会社WiTHART(ウィザート)

代表取締役 石田 賢孝(いしだけんこう)様

https://www.towani-tomoni.com/

ご葬儀の世界にはさまざまなプロがいて、信念や思いをもって、人生のお見送りに寄り添っていらっしゃいます。あまり触れる機会のない葬儀の世界のお話を、わたくし、杉下由美が各分野のプロにお話を伺う、「葬儀の世界のプロに聴く!」シリーズ。

3回目は、ご供養の世界を美しくとらえた品物を提供されている、株式会社WiTHART(ウィザート)代表 石田賢孝(いしだけんこう)さんです。メモリアルジュエリーやミニ骨壺などの手元供養品『TOMONi』をプロデュースされる石田さんに、グリーフケアやご供養に対する想いを伺いました。

 

「故人と「ともに」いたいという想い」を形に。美しいご供養品TOMONi

愛する家族を一番身近に感じられ、そして大きなグリーフケアにつながるものに、遺骨ジュエリーがあります。遺骨ジュエリーは、私のドレスを選んでくださる方も共感されている方が多いと思います。ご供養を「自分の求めるものできちんと整えたい」、という方にぜひご紹介したいと思い、青山一丁目にあるショールームにお伺いしました。

杉下

石田さんが展開されている供養の世界がとても美しく、以前からとても興味がありました。身に着けるジュエリーもそうですが、手元供養の小さな骨壺も美しいオブジェのようで、生活の空間で気持ちよく存在してくれます。ガラスを使った「光り墓」なども、温かい光に満ちていて、埋葬される故人でさえも気持ちいいのではと思ってしまいます。その中で、まずは遺骨ジュエリーを手掛けられたきっかけについて、伺ってもよろしいですか?

石田

きちんとお会いするのは、初めてですね。展示会で「光の庭」のドレスは見かけておりました。私自身は、異業種からこの世界に入っています。ある時期お世話になった会社のご縁で、メモリアルダイヤモンドの存在を知りました。メモリアルダイヤモンドは、主に頭髪で人工ダイヤモンドを作り出し、記念の宝飾品に仕上げるものです。日本では、ご遺骨と頭髪からタイヤモンドを作っています。そして、そこから故人を「ジュエリー」として身に着けていたいという、遺骨ジュエリーという世界を知り、新たな世界が目の前に開けました。

杉下

それで生まれたのが、石田さんが取り扱われている「TOMONi」ブランドのメモリアルジュエリーですね。

石田

そうです。TOMONiは「故人とともにいたいという想い」を形にする供養品のブランドで、ご遺骨を使ったジュエリーや、小さくて美しい骨壺を作っています。ジュエリーは18Kやプラチナがベースで、宝飾品としてのクオリティも高く、大切に身に着けていただけます。

 

3種類のメモリアルジュエリー

石田

TOMONiには、3つのカテゴリーのジュエリーブランドがあります。

まずひとつは、比較的皆さまにもおなじみの「TOMONiメモリアルダイヤモンド」です。ご遺骨や頭髪から抽出する炭素のみを使用して、愛する方だけがそこに存在する、唯一無二のダイヤモンドジュエリーに仕上げます。ダイヤモンドの色も均一ではなく、その方独自の色が出現します。

もうひとつが、天然サファイアにご遺骨を融合させる、「TOMONiメモリアルサファイア」です。ご遺骨(カルシュウム)と天然サファイアを融合させる世界初の特許技術により、硬度の高いサファイアジュエリーに仕上げていきます。ベースとなる天然サファイアには奇跡のブルーサファイア、優しさのピンクサファイアの2色があります。古くからサファイアは「天の宝石・空の宝石」と呼ばれて、誠意、真実、高潔を象徴する聖人の石として崇められてきました。

 

そして、3つ目は「TOMONiメモリアルジュエリー」です。微量のご遺骨またはご遺灰を樹脂と硬化し、その樹脂をリングやペンダントに包み込むように加工して仕上げます。

 

杉下

購入されるのは、個人様が多いのでしょうか?

 

石田

約7割が個人様からのご依頼で、ショールームへご来店またはインターネットを通じてお問い合わせをいただく場合がほとんどです。最近では、葬儀社様や石材店、仏具店様などからも、グリーフケアにつながるアイテムとして引き合いがあり、お取引先は広がっています。

 

胎児を亡くされたお母さんに寄り添うご供養品

杉下

石田さんのお話を伺っていて、この世に生を受けられなかった胎児も、遺骨ジュエリーになってお母さんのグリーフケアにつながるのではないかと思いました。

光の庭では、この秋に「抱っこできる胎児の棺」を発表しました。胎児のまま天に召されたお子様を抱きしめられるように、帽子を作る素材で作った柔らかいお棺です。デリケートな小さなご遺体を、そっと抱きしめられる棺なんです。姿は小さくても、火葬をしなくてはいけません。そのために棺が必要なのです。かつては、小さなご遺体が薬の空き箱に入れられて病院から渡されることもあったとのこと。その話が新聞記事になり、いろいろな方が小さなお棺を製作するようになりました。私もその記事に出会い、胸が痛くなりました。このお話を聞いてから5年ほど、ずっとずっと考えていて、やっと形にすることができました。

 

石田

わかります。お母さんの悲しみに寄り添うその発想が素晴らしいですね。素材にも形状にもこだわられて商品をデザインし、実際に制作されるとはお見事です。

杉下さんがお話しされたようなケースでのメモリアルジュエリーのご注文は、もちろんあります。ダイヤモンドにはある程度(150gほど)の量のご遺骨が必要ですが、メモリアルジュエリーなら、米粒一つのご遺骨があれば製作できます。ご遺骨を樹脂で固めて、それを指輪やペンダントの「お肌に触れる面」に埋め込みます。ほんのわずかなご遺骨でも、自分にとって大切な方の一部が肌に触れている、いつも一緒にいて肌に感じられることが、グリーフケアにつながるのではないでしょうか。

肌に触れ、存在を感じることがグリーフケアにつながる

杉下

故人の一部が自分の肌に触れて、常に存在を感じていられる…、「肌に触れている」ということがポイントですね。

素晴らしい。

石田

「肌に触れている」という感覚は、とても大切だと思うのです。そこまで大切に思う人だからこそ、いつも一緒にいたい。そのお気持ちに寄り添えるのが、どこに着けていっても違和感なく受け入れられるジュエリーだと思います。

遺骨カプセルや骨壺、ご位牌といったものですと、場所や状況によっては周りに気を使って「控えなければ」という意識が働くこともあるでしょう。普段使いのジュエリーであれば、そのような心配がなく、常に故人様と一緒にいられます。それが悲しみを癒やすことなればと思うのです。

杉下

石田さんが、ジュエリーを単に身に着けるアイテムとしてとらえているわけでなく、「肌に触れるもの」としてとらえていることに共感します。「触れる」というのは、私もとても大切なことだと感じています。触感は、記憶の中の大事なシーンにつながっています。

光の庭でも、手元供養のための小さな骨壺を作りました。四国は讃岐の漆塗り、手の中にすっぽり入る美しく小さな骨壺です。分骨されたご遺骨、お遺灰を入れて、いつも手に包み込んで供養できます。身近に置いて、ふと触れる。そして木製ですから、ご自身が旅立つときに一緒にお棺に入れられます。こちらは2022年冬に発売する予定です。

石田さんも、小さくて美しい骨壺も扱っていらっしゃいますね。

 

石田

はい。COCONiというブランドで、ほんの少しの遺骨を入れて、インテリアにフィットするオブジェのようにそばに置いていただける骨壺です。手元供養として、身近に置いていただけるように考えました。ガラスの骨壺には、ガラスの花を4輪お付けするタイプもあります。その日の気分に合わせて、また季節に合わせて、飾るお花を変えるという「あえて」のひと手間を狙っています。「あえて」アクションを起こす=故人に思いを寄せる時間を作り、お手元においてご供養していただきたいという願いを込めました。

生花をきれいに封入したものも とても人気があります。繊細なお花がそのままなので、驚かれますね。

 

ペットを亡くされた方に人気の高いご遺骨アクセサリー

杉下

ペットに対しても家族と同じ思いを持つ方が多いですよね。お問い合わせもたくさんあるのではないですか?

 

石田

その通りです。たくさんのお問い合わせをいただきます。当社は、ペット専門のご遺骨アクセサリーとして、「ISSHONY」というブランドを展開しています。人間用のTOMONiは宝飾品としての品質を重要視していますが、ペット用のISSHONYはシルバーや10Kを中心に、カジュアルな価格帯のアクセサリーやチャームが主体です。ペットロスを癒やすツールとして、こちらもとても大切なものだと思っています。

 

優しさ溢れる豊富なデザインとバリエーション

杉下

ジュエリーにしても、ペットのチャームにしても、バリエーションが多彩です。故人や愛するペットに思いをはせながら、デザインを選べることがうれしいですね。そして求める人に寄り添われたモノづくりをされています。

石田

リングやネックレス、ペンダントのデザインは、TOMONiが独自に考えてさまざまなバリエーションをご提案しています。その中でも、ダントツ人気がリング。約8割の方がリングをお求めになりますね。いずれも一つひとつ、ご注文をいただいてから心を込めて製作するもので、作り置きはありません。そのため少々お時間はいただきますが、リングはオーダー主様の指にフィットするよう、たとえば10号だときついけれど11号はゆるいという方には、10.5号サイズもお作りできる体制です。ご遺骨を埋め込んだジュエリーは、オーダー主様のお身体にすっとなじむ、オーダー主様だけのオンリーワン商品です。

 

杉下

ジュエリー専門店のように、修理やカスタマイズにも対応されていますか?

 

石田

承っています。リングに関しては1号までのサイズ変更は可能です。長く使っていただけます。

 

杉下

サファイアはブルーとピンクだけでしょうか? ダイヤモンドもカラーバリエーションがあるのですね。

石田

サファイアは天然のブルーサファイア、ピンクサファイアがベースになり、他の色はありません。ご遺骨のカルシウム量によってカラーの濃淡が若干変わります。

ダイヤモンドはご遺骨の炭素をベースに製作します。ご遺骨に含まれる炭素と元素によりカラーダイヤモンドも製作できます。

カラーは元素量により濃淡となり完成するまで判りませんが故人様のカラーと思っていただけます。

杉下

ダイヤモンドは炭素やその他の元素の量で、色も変えられるのですね!

幸せの証しとして西洋で発達したメモリアルジュエリー

石田

そうなんです。この技術は、欧米で発達しました。欧米ではメモリアルダイヤモンドの製作数が多く、この分野はとても発達しているんです。当社ではお客さまからお預かりしたご遺骨で、スイスで製作しております。

そこで炭素を抽出、ダイヤモンドルース(裸石)を造ります。その後、日本にルースを戻して日本の工房でジュエリーに加工します。

西洋のメモリアルダイヤモンドは、生誕、結婚などの人生の節目に作る記念品として定着していて、贈り物としてとても喜ばれます。生きているときに作りますから、「頭髪」から炭素を抽出します。骨ではないんですよ(笑)。日本では、メモリアルというとご供養のイメージがありますが、西洋ではもともと幸せに生きている証しとしての記念ジュエリーなのです。

杉下

え? そうなんですか? メモリアルジュエリーは、もともと生きているときに作るものだったのですね。それは知りませんでした。そもそもHappyなイメージをまとっているのですね。ステキなお話です。

私がエンディングドレスを作るきっかけも、故人の人生のストーリーが見える死装束で、思い出を幸せな気持ちで語れるようにしたいという想いでした。悲しみに暮れてお見送りするためのものではないのです。

個人的な話をさせていただくと、私は母のためのエンディングドレスを用意しています。ハリウッド女優がウエディングドレスとして着ていたような美しいドレスです。なんでハリウッドなのか、この話は語ると長くなってしまうのですが(笑)。母が昔憧れていたハリウッド女優のような衣装をまとってもらうことで、母との最期のときを、家族みんなで母を讃えて語ってHappyにとらえて見送りたいのです。

 

多様化する葬儀や供養に、美しい選択肢を提案したい

石田

杉下さんは、ご自身の想いをエンディングドレスという形にして、世の中に選択肢を提供されているのですね。当社のTOMONiも同じです。時代が変わり、人々が葬儀に求めるものも変わってきました。価値観が多様化しています。大切だと思うところもそれぞれ違うので、お金をかけるところも大きく変わってきています。今、業界は過渡期ですね。

杉下

はい、私も感じています。かつての葬儀はいろいろと大掛かりで、参列者の数や祭壇の立派さが求められました。それが立派な葬儀としてご葬家に求められていました。今は高齢化が進み、参列者も多くなく、かつてのような葬儀に価値を求める人は少なくなっています。ご葬家が、家族が納得できるお見送りが望まれています。その方法もさまざまで、選択肢も多くなってきました。

石田

葬儀、供養業界にある我々も、こうした変化の中でいかに故人に寄り添えるご提案ができるかが問われていると感じます。かつての常識も変わります。人々の価値観も多様化して、以前は受け入れられなかったガラス製のお墓(光る墓)や海洋散骨なども、一つのスタイルとして受け入れられています。そして、もっと多様化されていくでしょう。残された家族にとって、故人に対して「ここまでやったね」と納得できるような選択肢を提案したいですね。エンディングドレスやメモリアルジュエリーも、選択肢の一つとしてよりメジャーになっていくと思います。

杉下

同感です。ジュエリーもドレスも、残された方に寄り添うアイテムとして必要とされていくでしょう。私はこの業界のアイテムがあまりにも美しくないことが悲しくて、もっとエレガントなものがあってもいいじゃないかという想いが出発点です。「どうせ燃やすんだから」と、まるで服に書いてあるようなひどい死装束を見たのが一番最初のきっかけでした。その時の衝撃がずっと種火の様に私の中にあります。

ご遺族や残された方々に、グリーフケアにつながる美しいアイテムがあることを、もっともっと知っていただきたいですね。今はインターネットがあるのでだいぶ情報拡散もできます。あとは、よく「百貨店に行ったけれど、見つけられなかったのよ」と言われます。アイテムとしては、百貨店ではおなじみのドレスとジュエリーですもの。高齢者の方は、百貨店を信頼して探しに行かれるけど置いてないんです。百貨店の方々にこそ、是非注目してほしいのですが・・・。

 

石田

百貨店のお客さまに知っていただきたいという想いは私も昔からあるのですが、忌みごとととらえる傾向が強くて、まだ実現できません。エレガントな終活提案の一環として、挑戦してほしいものです。百貨店にはその力があるのに、もったいないですよね。

今回、杉下さんからこの対談のお話を伺った際にふと頭に浮かんだのは、7~8年前にフューネラルビジネスフェアで見たウエディングドレスのような美しい死装束でした。あのブースは葬儀の展示会の中ではとても印象に残りましたので、杉下さんがどのような思いでエンディングドレスを提案されているのか、興味がありました。お話ししていて、多様化する価値観をとらえる力には驚きました。胎児やペットにも思いを寄せられ、「死」の悲しみをどのように癒やそうとされているか、しかもそれを具現化して事業に落とし込まれているパワーに感動しています。

 

杉下

恐れ入ります。こちらこそ石田さんの想いに触れ、創造のエネルギーをいただきました。これからも美しくエレガントなアプローチで、業界を刺激していきましょう。本日はありがとうございました。

 

TOMONi  https://www.towani-tomoni.com/

ISSHONY https://isshony.com/

 

取材:2022年9月

文中敬称略

  • 関連記事 対談企画 葬儀の世界のプロに聴く

Vol.1 あまねや 納棺師 丸山裕生(まるやまひろみ)様

https://www.hikarinoniwa.co.jp/blog/2355/

Vol.2 イワタ株式会社 岩田壮一郎(いわたそういちろう)様 

https://www.hikarinoniwa.co.jp/blog/2728/

 

 

 

「世界から悲しみをなくしたい」その想いで、旅立ちの姿を整える道具を創る

【対談企画】 葬儀の世界のプロに聴く Vol.2    

ご遺体処置用品専門企業 代表 岩田壮一郎さん

「対談企画」葬儀の世界のプロに聴く シリーズ一覧

 Professional Profile Vol. 2

イワタ株式会社

代表取締役 岩田壮一郎(いわたそういちろう)様

http://www.medical-iwata.co.jp/

 

ご葬儀の世界のさまざまなプロが、信念や思いをもって、人々の人生のお見送りに向き合っています。あまり触れる機会のない葬儀の世界のお話を、わたくし、杉下由美が直接プロにお話を伺う、「葬儀の世界のプロに聴く!」シリーズ。2回目となる今回は、葬儀用の処置用品を取り扱う、イワタ株式会社代表の岩田壮一郎(いわたそういちろう)さんです。フューネラルケアの専門用具やエンバーミング用の薬剤など、ご遺体を整えて修復する商品を扱われる岩田さんに、故人とのお別れの際にとても重要なご遺体の扱いについてお話を伺いました。

 

ブルックリン風のスタイリッシュなオフィスから発信される、葬儀用衛生用品

杉下

岩田壮一郎さんとは、先日のフューネラルビジネスフェアでお目にかかりましたが、初めましての席で大いに話が盛り上がりました。今日は、より踏み込んだお話を伺いたく、会社にまで押しかけました(笑)。NYのブルックリンにある倉庫オフィスをイメージされたと聞きましたが、ワンフロアでとてもカッコいいですね!

岩田

ありがとうございます。昨年(2021年)に、こちらに移転しました。社員同士がコミュニケーションをとりやすい、オープンな職場環境になりましたよ。

杉下

今日は、ご遺体の処置用品を専門に取り扱われている岩田さんに、特に「ご遺体の保全」という切り口でお話を伺おうと思ってまいりました。おそらく、ほとんどの方が知らない世界だと思います。まずはイワタ株式会社の事業を、簡単にご紹介いただけますか?

 

 

岩田

イワタは、葬儀業界の方々がご遺体保全のために必要とする衛生用品や道具を取り扱っています。具体的には、葬儀用の脱脂綿やエンバーミング薬剤、ご遺体用メイク用品、消毒薬剤などです。法人対象のお取引が中心ですが、フリーで活動される納棺師の方向けにECサイトも運営しています。コロナ禍で需要が高まった除菌剤などは一般の方にもご利用いただいています。

https://medicaliwata.thebase.in/

 

目標は「世界から悲しみをなくすこと」

杉下

岩田さんは、「世界から悲しみをなくしたい」という思いを掲げて、お仕事に取り組まれていると聞きました。詳しくお聞かせいただけますか?

岩田

大切な方との永久(とわ)のお別れは、とても悲しいことです。特にご遺体が、闘病や事故などで痛ましい姿になっていれば、お元気だったころを知る方々にとっては、そのお姿の違和感に、さらに悲しみを強くしてしまうでしょう。

私たちは、お見送りの際に、故人をできるだけ元気なころのお姿に近づけるための商品を提供しています。お別れの場の「悲しい違和感」を少なくすることで、喪失の悲しみを少しでも和らげたいのです。

 

故人が主人公のストーリーを大切にしたい

杉下

私がエンディングドレスの「光の庭」を立ち上げたきっかけと、原点がとても近いところにあると感じました。若くして亡くなった友人の葬儀に伺った際、ご遺体には妻の手で阪神タイガースのユニフォームが着せられていました。彼のタイガース愛から話が広がり、どれほど人生を楽しんでいたか、どれだけみんなから愛されていたか、悲しみに沈んでいた場が和やかな雰囲気になり、故人を囲んで彼を讃えるたくさんのお話が交わされました。服にはその人を表現するストーリーがあると、強く認識した瞬間です。私は長年、企業PRのコスチュームデザイナーで、コンセプトやストーリーを、「衣装」という形にするプロです。最期の死装束は故人の人生を讃えることができる、見送る側もHappyになる、衣装にはその力がある! 沸き上がったその思いが、エンディングドレスに取り組むきっかけとなりました。

岩田

とても共感しますね。誰にも人生のストーリーがあります。故人のストーリーを語る場、笑ってお見送りできる場があることは、グリーフケアの一環としてとても大切です。もしその時に、故人のお顔がまったくの「別人」になっていたらどうでしょうか?ショックですよね。「かわいそうだった」「苦しかっただろう」、という悲しい気持ちの方が強くなってしまいます。

お別れの際、みんなのイメージの中にある元気だったころの姿にできるだけ戻せたら、自然に安らかで和やかなお別れの場をつくることができるのではないかと思います。誰もが迎える最期の時こそ、ご本人が主人公であってほしい。旅立つご本人が主人公であるストーリーをみんなが思い出し、語り合いながらお見送りできるようにしたいという思いが仕事の根底にあります。

イワタでは、最新の技術でお顔を復元できる造形剤やお肌の状態を整える保潤剤、メイク用品など、葬儀のプロが求める確かなクオリティの品を探して、開発して、提供しています。

 

現場の声に応え続けてできあがった商品ラインナップ

杉下

家族でゆっくりお別れしたいと家族葬が好まれるように、葬儀の形も変わってきています。エンディングドレスを購入されるお客様の中には、美しいドレスに身を包んだ故人と、できるだけ長く一緒に過ごしたいと願う方もいらっしゃいます。でもやはり問題は、ご遺体の保全です。葬儀社も尽力されていると思いますが、少しでもご遺体が傷むのを遅らせるために、家族も使えるタイトスクラムスプレーやタイトスクラムエアがお役に立つのではないかと思い、光の庭でも取り扱いを始めました。

https://www.hikarinoniwa.co.jp/shop/products/list.php?category_id=132

岩田

イワタのタイトスクラムは、除菌、防腐を目的とした衛生用品です。扱いやすく効果が長持ちするため、コロナ禍では広く一般からも除菌効果を求めて引き合いがあり、インターネットで通信販売もしています。

実際に葬儀業界で使われているものを、一般の方に使えるように小分けしたものを用意しました。家族葬などで故人に寄り添うときにお使いいただけるとその効果を実感してもらえると思います。

あと、ご遺体専用の顔パックや湿潤剤も提供しています。これを使うだけでもご遺体を乾燥から守り、変形を遅らせることができます。シートタイプの顔パックは、年間12,000セットも使われている人気商品なんですよ。納棺師さんにも好評です。なにより、ご遺族が喜ばれるそうです。「お父さん、お顔がツヤツヤね。」って。

実はイワタは先代まで、処置用の脱脂綿一つで商売をしていたのです。私が入社してから、葬儀の現場に出かけて直接声を聞くと、「こんな製品がほしいが、今はないので、手に入るものを工夫して使っている」または「海外からわざわざ取り寄せている」といった声があり、ニーズがあるならイワタが扱えばよい、と考えました。それからエンバーミングの薬剤を輸入したり、必要な道具を新しく開発したり、メーカーを探して仕入れたりすることを続け、今ではご遺体処置に関わる商品全般を扱う、全国でも唯一の会社になりました。

 

ペットを見送る際の亡骸の保全について

杉下

実は、展示会で岩田さんとお話をしたきっかけは、展示ブースでペットの葬送の発信をされていたからです。光の庭でもペットの葬送品に力を入れており、愛するペットとのお別れの時間をできるだけ長く美しく過ごしたいと願うご家族のために役立つアイテムがないか、展示会でアンテナを立てていました。

岩田

ペットの葬送に関する事業は、今まさに立ち上げようと準備しているところです。こちらは一般消費者向けになりますので、まずはSNSなどを使って、一般の方のご意見や要望をリサーチすることから始めています。

展示会で杉下さんに会えたのもまさにご縁ですね。

杉下

そうですね。どうしても、ペットのお見送りには、葬儀社さんが関わらず、飼い主さんだけの場合も多いので、ペットのご遺体の保全が大きなテーマだったんです。薬剤とコットンフラワーのセット展示にフラフラと吸い寄せられていきましたから。私も良いご縁だと思いましたよ(笑)

イワタさんでは薬剤の取り扱いでエンバーミングにも深く関わられていますが、ペットのエンバーミングについてはどのようにお考えですか?

岩田

エンバーミングは、血管を利用して血液と防腐剤を完全に入れ替えることで、ご遺体の保全・修復ができる優れた技術です。エンバーミングにより、毛細血管まで防腐液が浸透すると、ご遺体は消毒・殺菌されると同時に、皮膚の表面が生前のような色合いでふっくらと美しくなります。

日本では、IFSA(一般社団法人日本遺体衛生保全協会)に所属する企業ならびにエンバーマーにより、厳格なルールのもとで施術されます。あくまでも人間を対象としており、IFSAは動物に対してエンバーミングはしていませんから、今「ペットのエンバーミング」と言っているところは、同等の優れた技術でも、この言葉は使えないので、違う名前ではじめられるかもしれませんね。

エンバーミング先進国である米国のあるエンバーマーに聞いたところ、「ペットも技術的には可能だが、ペットの場合はエンバーミング効果(見た目の変化)が毛で覆われていてハッキリしないので、ニーズはほとんどない」との話でした。

杉下

なるほど。米国では「外観を生前に近い形で保全する」という意味で、エンバーミングをとらえるのですね。私は、「愛するペットと1日でも長く一緒にいられるよう、腐敗を遅らせたい」というニーズがあるのではないかと思うのですが。

岩田

実際に施術するとなると小さな身体で細い血管で施術も高度なテクニックが必要で今はペット用の施設もない状況です。

腐敗防止の観点から需要はあるかもしれませんが、エンバーミングも「永遠」というわけにはいきません。長く保つには薬液の交換などのメンテナンスが必要で、現実的ではないと思います。

 

杉下

そうですか、まだまだ難しいですね。愛する家族に、精一杯のことを「してあげる」ことは、グリーフケアにつながると思います。なにか、セレモニーをすることも、「してあげる」ことで、悲しみを癒す力になりますね。ペットの葬儀も執り行うところが増えていますし、ペット仲間で花を送ったり、弔問に訪れたりしています。

自宅安置イメージ(ぬいぐるみモデルによる商品撮影)アポテオーズ光の庭

 

岩田

ペットとのお別れについて皆さんにお話を伺うと、人間の葬儀のように人が集まることは少なく、SNSや動画などを通じて弔意を示すことが多いのです。当社のペット事業では、今までの商品開発とはまた違う「しくみ」「サービス」の提供を開発しています。

杉下

光の庭でも、レクイエムギフトとして美しいポーチを用意しています。ペットの大好きなおもちゃやおやつ、メッセージを入れて一緒に送り出してもいいですし、思い出の品を入れてそばに置いてもいい。悲しみの中にいるご家族の方に寄り添うギフト用品として、お供物や供花の様に贈って、弔意を表すのにご利用いただければと思って製作しました。

岩田

それはステキなアイデアですね。自分の経験からも、ペットの死は本当に悲しい。ちゃんとしたお別れができるかどうかは、その後の生活に大きな影響を与えます。イワタの事業としても、生きとし生けるものに対して、大きなグリーフケアにつながる事を意識して チャレンジしていきたいです。

杉下

ペット用品のお見送りのアイテムに関しては、大人の美しいデザインの品物がない!というのが私の率直な感想です。供養品はたくさんあるのですが、お見送りの品物自体がほとんどないんです。なので、人間のエンディングドレスと同じ気持ちで、愛にあふれたお見送りのドレスやグッズを開発しています。お棺にしても、ここ数年でペット専用の段ボールの物が出てきましたね。光の庭では、抱きしめられるドレスの様に美しいお棺を企画、開発中です。沢山の選択肢の中で選んでほしいです。

岩田

それぞれのご家族で、自分たちにふさわしいご葬儀をクリエイティブする時代に変わってきていますね。そのための選択肢を用意したい。それは人間に向けてもペットに向けても同じ発想でありたいですね。

古い慣習、体質の業界に風穴を

杉下

古い慣習、体質が残る葬祭業界の会社の中で、イワタさんの会社の雰囲気はとても若々しくて、新しい発想がどんどん生まれそうな気がします。今、社員の方は何名いらっしゃるのですか?

岩田

パートを含めて全従業員は20名で、社員は現在6名、新卒入社のメンバーが中心なので、みんな若いです。来年も新入社員を数名迎え入れる予定です。

杉下

人材難といわれるこの時代に、それはすごい!

岩田

入社面接がユニークなんですよ。面接ではワークショップを組み合わせて、「この会社で新しい商品またはサービスを立ち上げてみよう」という無茶ぶりをします(笑)。実は、ペットの葬送事業は、面接のワークショップから生まれたアイデアを具現化するものです。入社時に企画、プレゼンした社員が主体となり、事業立ち上げを準備しています。

杉下

イワタさんは老舗企業でありながら、若い方の発想力が、新事業の原動力となっているのですね。

 

岩田

そうですね。当社は来年で創業85周年を迎えます。1938(昭和13)年に祖父が創業した岩田商店が始まりで、2代目の父は、脱脂綿を中心に葬儀に必要な衛生用品を取り扱ってきました。私はもともとは自分で起業をしようと考えていました。そのために必要な「人・モノ・カネ・情報」を学ぼうと、いくつかの企業に勤めました。35歳の時、自分で起業するのもよいが、父の会社の行く末をふと思い、2015年にイワタに入社しました。父は私に会社を継がせる気がなく、入社前から入社した後も常にぶつかり合ってきましたが、2019年6月に私が代表取締役社長に就任し、事業を引き継ぎました。

イワタ株式会社という公器を使って何をするか。私が代表となってまず行ったのは、現場を知ることでした。納棺師の方々とともに葬儀の現場に出向き、悲しいお別れの現場に立ち会うことで、ご遺族の想いやその悲しみを和らげようと奮闘する納棺師の方々の姿を目に焼き付けました。

「世界から悲しみをなくしたい」という思いがわき上がり、現場のニーズを拾い上げながら製品を企画し、必要なものは輸入するなど、すべて現場で求められる声から取扱製品を増やしてきました。優れた製品を提供することは我々の使命です。そして製品を使う現場の方々の技術力向上も必要だと考えています。葬儀の現場を担う人たちの間に、技術格差や情報格差をなくすために、情報を共有し学びを深められるような仕組み(SNS)も構築しようと奮闘しています。

杉下

アイデアを形にする迅速な判断、行動力と、若い力を伸ばそうという社長の岩田さんの采配が、葬送業界に新風を吹き込むような気がしてワクワクします。

岩田

今回の対談を通じて、杉下さんが目指す事業の方向性やベースにある考え方がよく分かり、私が描いている世界観と非常に近いものを感じました。これからの杉下さんのチャレンジにも、大変興味があります。これからも情報共有しながら、勉強を重ねて、何かの形でコラボレーションを試みたいですね!

杉下

私も岩田さんのお話にとても共感しました。それとともに、新しい視点とアンテナで古い体質の業界に風穴をあけようとされている姿勢に、とても刺激を受けました。葬儀の世界は急速に変わっています。葬儀の在り方も、まだまだ大きな変化の途中の様に思います。この流れに向かうための心強いヒントをいただきました。本日は、ありがとうございました。

 

取材:2022年7月

文中敬称略

 

 

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Professional Profile Vol. 1

あまねや

納棺師 丸山裕生(まるやまひろみ)様

https://noukanshi.net/

エンディングドレスを作り始めてから、ご葬儀の世界のさまざまなプロにお目にかかります。どなたも信念や思いを大切にされ、人生のお見送りに向き合っていらっしゃいます。ご葬儀の各分野で活躍されるプロの皆様に、わたくし、杉下由美が直接お話を伺い、blogで「葬儀の世界のプロに聴く!」シリーズとしてご紹介したいと思います。なかなか知られることのないご葬儀のプロの世界にぜひ触れてください。

初回にお話を伺うのは、フリーランスの納棺師、丸山裕生(まるやまひろみ)さんです。大学を卒業後、納棺師の専門会社に約15年勤務したのち、2018年、フリーランスの納棺師として独立されました。納棺師歴19年の丸山さんに、お仕事の内容や心掛けていることなどを伺いながら、私たちが納棺師の方にリクエストできることも、教えてもらいました。思いがけず、さまざまな願いを叶えていただけるとわかり、驚きました。

 

心の炎が消えることはなかった天職との出会い

杉下

丸山さんは、どうして納棺師になられたのでしょう? 何かきっかけがあったのでしょうか?大学を卒業したばかりの若い方が最初に選ぶ仕事としては、大変珍しいと思ってしまいました。

丸山

もともと、働くなら「人を助ける仕事がしたい」という思いがありました。はじめは、人の幸せに関わるブライダル業界への就職を考えていたのですが、結婚式というのは、誰にとっても幸せの絶頂のときですよね。誰かの幸せに関わるお手伝いをするなら、「自分自身がその方たち以上に幸せでなければ、幸せに水を差してしまいそう…、私には自信がない」となぜか思ってしまったのです。そこで、発想のベクトルを逆に向けました。誰かを亡くして「悲しい」思いをされている方に寄り添い、幸せ度でいえばマイナスからできるだけゼロのレベルまで近づけるようサポートすることが、私にあっているのではないかと考えました。

葬祭業界のことを調べていく中で、納棺師を養成して派遣する会社を見つけて、初めて「納棺師」というお仕事の存在を知りました。両親は、ご遺体に直接関わる仕事と知って猛反対しました。私は2003年入社なので、映画の『おくりびと(2008)』はまだ公開されておらず、今よりはずっと理解されていない仕事だったと思います。

入社して納棺師として仕事を始めると、あらためて大切な方を亡くして悲しみの中にいらっしゃるご家族に寄り添うお仕事に、「これだ!」という強い思いがわきあがりました。15年間の会社勤めを経て独立をして、納棺師歴は19年になりますが、一貫して心の炎は消えることはありません。

 

最期のときを整える納棺師という仕事

杉下

丸山さんの信念が伝わってくるお話ですね。今でこそ『おくりびと』やドラマなどで納棺師という存在は知られるようになりましたが、それでも専門職というよりは葬儀社のスタッフの一員、という認識のような気がします。具体的には、どのようなお仕事をされているのでしょうか。

 

 

丸山

ご葬儀は、ご遺族の悲しみを癒やすグリーフケアとしてとても大切です。そのお身体をご家族が知っている生前の状態にできるだけ近づけるようにするのが、納棺師の仕事です。

納棺師は葬儀社からの依頼を受けて葬家様に伺い、ご遺体を生前のお姿に近づけるよう、お化粧や修復、着付けを施して整えます。お元気なころの顔付きやお顔の色味、髪形や、全体の雰囲気など、ご家族とお話をしながらご希望を確認していきます。お話はもちろん、お写真などを見せていただくと、納棺師はとても助かります。

そして、最期の衣装にお着替えをさせていきます。納棺師はほとんどの服を着つけることができます。生前に愛用されていたお洋服は多いですね。

趣味の社交ダンスのドレスやお気に入りの着物、男性はお仕事に情熱を注がれていたころのスーツをお召しになることもあります。できるだけ生前に近い姿となるよう故人様の最期のときを整え、ご遺族が心ゆくまでお別れができるよう、心掛けています。

 

ご逝去直後のエンゼルケアとは違う、ご遺体のプロだからこその処置

杉下

亡くなったその直後から、最愛の家族とできるだけ長く一緒にいたい、美しい状態でゆっくりお見送りしたいという思いはどなたにもあると思います。今はドライアイスだけでなく、エンバーミングや気化する薬剤などの技術で、傷まないご遺体とできるだけ長くお別れの時間をもつ選択肢もありますね。

 

丸山

ご遺体をできるだけ美しい状態で…というご希望は増えています。エンバーミングは、もともとは海外の宗教観に基づき、「復活のためにBODYを残す」という思想から生み出された技術です。日本では50日以内に火葬することが条件で、エンバーミングが認められています。私がこの業界に入った当時、必ず火葬をする日本では流行らないだろうといわれていましたが、この20年間で増えてきたと感じます。

特にエンバーミングまでしなくても、美しい状態を作るために納棺師ができることはたくさんあります。

納棺師が行う具体的な処置は、

・口と目を閉じて、ふくみ綿などでふっくらとしたお顔付きにする

・着付け+宗派による旅支度

・産毛、髭剃り

・ドライシャンプーと整髪

・顔色を整える(フューネラルメイク)

・保湿

などで、これらの処置を約1時間から1時間半で行います。ご闘病で痩せてしまったお顔を直したいというご要望は、特に多いです。美容注射に似た技術を使う場合もありますよ。

 

杉下

短時間でこれだけのことを行うのですね。家族が見ていてもよいのでしょうか。

 

 

丸山

もちろんです。お着替えや保湿クリームを塗っていただくなど、ご家族にお手伝いしてもらうこともあります。ご遺体は生きている身体とはまるで状態が異なり、どんどん乾燥して変化が進みます。変化を抑えるには、特に保湿が重要です。ご家族にはできるだけ保湿ケアをお願いしたいところです。市販のクリームで構わないので、お顔や首、手、唇などに油分を補っていただくだけでも、ご遺体の状態を保ちやすくなります。ご遺体は血液がさがり、お顔に血の気がなくなってしまいます。できるだけ生前のお姿に近い状態にするためにも、女性に限らず男性もナチュラルなメイクは施した方がよいと思います。

杉下

病院の看護師さんがエンゼルケアでお化粧をしてくれたのでメイクは不要、と思われている方もいらっしゃるのではないでしょうか?

丸山

看護師さんが行うエンゼルケアは、あくまでも亡くなられたときに施すお身体の保全がメインで、お化粧は日常のお化粧と同じ感覚です。ご遺体の状態は刻々と変化します。お顔は特に変化しやすく、通常のお化粧をするエンゼルケアだけでは最終的にお顔色が変わってしまうこともあります。

看護師さんが看護のプロであるのに対し、納棺師はご遺体のプロです。火葬の順番待ちなどでは長い期間ご遺体を保存する必要があります。火葬までの間のご遺体の変化を予測して、お身体の状態を保つ期間をしっかり把握したうえで、変化を抑える処置をするのが納棺師の仕事です。ご遺体の変化も納棺師の役割も、ほとんどの方は知らなくて当然ですが、これからはもう少し知っていただく努力をしないといけませんね。

 

シンプルで個性を発揮した葬儀は可能

杉下

グリーフケアのためにもお別れのセレモニーはとても大切です。でも、いざ葬儀を行うとなれば、どうすればいいかわからないから葬儀社のプランにお任せ、というケースが多いと思います。心情としてとても混乱している時間の中、プランに入っていることは本当に必要か?必要ではないものも含まれているのではないか?と、内容を理解するのは大変ですよね。納棺師さんのお仕事を理解しているとして、もしプランに入っていないときには、自分で手配したいと思われる方もいらっしゃるのではないでしょうか。丸山さんはフリーで活動されていますが、個人から直接依頼を受けるケースはありますか?

丸山

数は少ないですが、あります。私たちの仕事は葬儀社からのご依頼がほとんどですが、最近は葬儀社に「直葬」を依頼しながら、メイクやお花はご家族ご自身で手配される方もいらっしゃいます。ご自宅で故人様を囲み、ご家族や親しい人でとゆっくり過ごすお別れを、告別式の代わりにされる方もおられます。故人様の好きだったウナギを皆さんでいただきながら、思い出を語り合うことでお別れの場とする方もいらっしゃるのです。

「葬式不要、戒名不要、墓もいらない」と言われる方でも、ご家族にはお別れの時間が必要ですから、オリジナルで考えていただいてもよいと思うのです。そんなときに、納棺師を呼んでくださればお身体とお顔をきれいに整えることができます。私たちプロを使うことで、故人様とご葬家様にふさわしい新たなお見送りを考えていただくことができるのではないでしょうか。また、最近はお寺からのご依頼もあります。主に檀家さんがいらっしゃるお寺ですが、もはやお寺さんが葬儀社となりご葬儀を行うケースですね。

今、従来型のご葬儀だけでなく、家族葬など参列者が親族だけのクローズドな葬儀、お通夜から初七日までを一日で行う一日葬、直葬など、ご葬儀の形は多様化しています。コロナ禍で加速した感がありますが、特に最近は簡素な葬儀が好まれています。家族葬はその典型ですね。

納棺師の仕事はオプションになることも多く、明記されていないこともあるので、納棺師の役割を知らないまま選ばれない可能性があります。「着せたい服があったのに着せてもらえなかった」というお話を伺うことがありますが、知らないうちに納棺師を入れないご葬儀を希望されたケースかもしれません。「費用を抑えたいのだろう」という葬儀社の思い込みから、私たちの仕事が案内されないことがあったら残念です。お式がシンプルであっても、ご遺族の個性やポリシーは発揮してよいのです。ご家族だけでお別れするときも、ご遺体を整えるプロの仕事を加えていただき、思い出に残る上質なお別れの時間になるといいなと思います。

 

見せかけではない本当に美しい光の庭のエンディングドレス

杉下

丸山さんには、光の庭のエンディングドレスをご覧いただきましたが、いかがでしょう? 率直なご感想をお聞かせいただけますか?

 

 

丸山

光の庭のエンディングドレスが、「寝ている状態」を前提に商品を見せていて、他社のドレスとは異なることにまず感心しました。そして何より美しい。見せかけの美しさではなく、本当に美しい生地、レースをふんだんに使っていらっしゃるのだと、実物を拝見してあらためて感動しました。

 

杉下

人生を讃え、ハレの旅立ちを演出する美しいドレスをイメージしてデザインしています。寝ている方にお召しいただくことが、普通の服と大きく違う点です。型紙も縫製も作り方も、通常の衣服とは全く違うコンセプトで制作しています。例えば参列者は、故人のおへそのあたりからお顔を見ますよね。見上げるように見るという参列者の視点を前提に、デザインに工夫をこらしています。そして、ご家族や納棺師さんたちが着せやすいよう、細部にさまざまな工夫をしています。ほかにもまだまだ工夫している点はあるのですが、話が長くなりそうです(笑)。

丸山

お袖も手を通しやすそう…。実際に着せる体験をしながら、エンディングドレスの工夫のポイントを知りたいです。納棺師は、普通の服は着せ慣れていますが、光の庭のドレスは工夫されているので初見で着せるのは逆にわかりづらいかもしれません。着せやすさのポイント、どの点に注意すれば最も美しく見えるようになるかなど、着付けの説明書があるといいですね。

杉下

なるほど、それは重要なポイントですね。ご家族でも着せられるようにと製作していますので、説明書については考えます。動画を用意してもいいかもしれません。

 

丸山

これだけ美しいドレスであれば、やはり「魅せる美しいお着せ替え」の手法を考えてみたくなります。納棺セレモニーにしてもいいですね。実は、故人様のお着替えをご家族と一緒にすると、達成感で場が一つになる空気が生まれるのです。すべてをご家族が着つけることは、ご遺体の状態にもよりますし、お気持ちの部分でもハードルが高いかもしれません。エピローグドレスを購入して、美しく着つけてメイクも施す納棺師をご紹介できるプランがあってもよいのではないでしょうか。

 

杉下

そういえば、実際にご要望がありましたね。遠くの病院で亡くなられたご家族に、エンディングドレスを着つけて葬儀まで付き添っていただける方をご紹介してほしいと。そのときは私自身、まだ葬儀業界にネットワークが少なかったのですが、それでもなんとかご縁をたどって丸山さんにご相談させていただきました。

 

丸山

そうですね。今までにない、特殊なケースでした。ぜひご一緒に、葬家様のお役に立ちたいと思いましたので、お引き受けしました。これからもいろいろなご要望があると思いますが、精一杯お応えできるよう頑張ります。

 

杉下

最後に、納棺師としての丸山さんの想いを教えていただけますか。

 

丸山

ご遺体は故人のお身体であり、命の学びを実体験として得られる場です。「死」を受け入れ、自分の中に落とし込んで感情を閉じ込めておかない、それが悲しみに折り合いをつけるグリーフケアです。ご家族それぞれのお考えはあると思いますが、生き抜いたご家族の最期に、できるなら小さなお子様にも立ち会ってもらえたらなと思います。

私は、ご遺体は故人からの最後のギフトだと考えています。だからこそ、お見送りの場はできるだけ美しく整えられた状態にしたいというのが私の願い。おひとりおひとりの人生の終わりに立ち会うことで、日々学びを得られる納棺師という仕事は、私の天職です。

 

杉下

やっと今は自分なりに考えたプランで、故人にふさわしいお見送りができる時代です。私たちの力をどんどん活用してほしいですね。丸山さん、今日はありがとうございました。

取材:2022年4月

文中敬称略