「対談企画」葬儀の世界のプロに聴く シリーズ一覧
Professional Profile Vol. 4
株式会社アシェル
佐々木瑛永(ささきあきひさ)様
ご葬儀の世界にはさまざまなプロがいて、それぞれに信念や思いをもって、人生のお見送りに寄り添っていらっしゃいます。あまり触れる機会のない葬儀の世界のお話を、わたくし、杉下由美が各分野のプロにお話をうかがう、「葬儀の世界のプロに聴く!」シリーズ。
4回目は、葬儀専門の音楽事務所として全国でプロの演奏家を派遣する仕事をされている、株式会社アシェルの佐々木瑛永さんです。このお仕事を始めたきっかけや想いについて、うかがいました。
「故人が好きだった音楽で見送りたい、生演奏で偲びたい」の声に応えて
― ご葬儀に演奏家を派遣されていると聞いて、とても興味がわきました。しかも、ご葬儀専門の音楽事務所ということで、尖ってますね(笑)
エンディング産業展では、実際に「光の庭」ブースで演奏をしていただいて、あまりの演奏のレベルの高さにびっくりしました。
佐々木
ああ、あの時はありがとうございました。演奏の機会を頂きました。
あのフルート奏者は海外のコンテストなどで賞もたくさん取っているプロなんですよ。生で聞く演奏は、まずは経験していただくのが一番だと思って、「光の庭」さんの展示会ブースで演奏させてもらいました。
フルートひとつだけでも、その場を魅了する力があります。実際に、空気が震える感じがしませんでしたか?皆様、意外に生で演奏を聴く機会がないので、フルートやバイオリンの音色に直接触れると、その力強さに驚かれます。それは、CDの音楽に慣れていると味わえない音楽の魅力です。
― ほんとに、本気のプロのすごさがわかりました。そのような演奏家の方々が所属されているのですね。それにしても、ご葬儀専門の音楽事務所は、どのようなきっかけで始められたのですか?
佐々木
アシェルは、うちの創設メンバーがご葬儀専門にと強い想いをもって始めた音楽事務所です。この仕事を立ち上げるために、音楽事務所から大手の葬儀社に勤めて、ご葬儀の場で求められる音楽を探ってきました。たくさんのご葬儀をする中、厚生労働省が認定する「1級葬祭ディレクター」の資格も取っちゃいました(笑)本気で葬儀に取り組んでいましたから、とれちゃうんです。
えっと、そこでも 「音楽でお見送りしたい」というリクエストが増えていることに気付いたのですが、葬儀社ができるのはCDで音楽を流すことくらいでした。故人様を偲ぶ音楽が生演奏で出来たら、もっとハートフルな雰囲気の中で、お別れができるのではないかとの思いを強くしました。音楽を中心にしたご葬儀だってできますよね。
もともとの音楽事務所とのつながりがあり、その事務所は主にテレビ番組やイベントに演奏家を派遣しています。演奏家にとっては、それぞれの演奏活動の他に、仕事を紹介してもらえる窓口です。葬祭関連の依頼も来ていたのですが、ご葬儀ならではの配慮や急な依頼への対応に困っていて、音楽事務所も葬儀業界でのお仕事に不安や悩みがありました。
― そこで、創設メンバーの方が、ご葬儀のプロになって、間に入られたのですね。
佐々木
そのとおりです。そのために葬儀の現場を経験してきたんです。頑張りすぎて葬祭ディレクターにまでなっちゃいました(笑)。
現場に入って改めてわかったのですが、葬儀社も音楽の手配はまったく畑違いのことで、どのようにすればいいかわからずにいました。葬儀社も不安だったんです。
故人様の好きな音楽をCDではなく、生演奏で…とご遺族様に依頼されても、頼む先がわかりません。また、故人様との大切なお別れの場を台無しにしないよう、それなりのマナーと演奏技術を持つ人に来てもらえるのかという不安があります。楽器ができれば誰でもいいわけじゃないんです。その調整役となって動いたことが、アシェル誕生のきっかけです。
そして、この活動は音楽事務所に登録する演奏家の皆さんにとっても、悪い話ではありません。演奏会のスケジュールは、たいていかなり前からわかっています。ご葬儀の仕事は昼の時間帯なので、演奏会などとバッティングしないで活動できることもあり、新たな収入として期待できます。アシェルとしては、演奏の機会を多く作ることで、少しでも演奏家たちの活躍の場が増えたらいいと考えました。
― 葬儀社にとっては新たな音楽の提案になり、演奏家にとっては演奏の機会が増える、まさにWin-Winの関係ですね。
佐々木
そうなんです。音楽事務所はご葬儀の世界にご縁ができて、葬儀社は「生演奏」をお客様にご提案できます。私たちが間に入って、ご葬儀にふさわしい演奏家を派遣し、ご葬家様の気持ちに寄り添ったお別れの場をつくろう、葬儀の自由度を高めようという思いで、2019年11月に「アシェル」を立ち上げました。まあ、よく言われるのですが、「葬儀専門」は音楽事務所としてはかなり尖ったコンセプトですよね(笑)。
3つの楽器に絞り、全国翌日対応を可能に
―それにしても、全国に演奏者を派遣されているのはすごいと思います。事務所を始めてからすぐに全国で展開できるとは驚きです。
佐々木
ここでは葬儀業界でのネットワークが活きています。「小さなお葬式」をご存じでしょうか? 今の時代に求められて、全国で大きく成長しているご葬儀です。「小さなお葬式」とタイアップすることで、一気に全国47都道府県で展開できるようになり、いきなり全国規模でスタートすることになりました。
― え~。それは大胆ですね! でも、そんなにたくさんプロの演奏家を全国に手配できるのですか? ご葬儀の場合は急なご依頼も多いと思います。どのようにしているのですか?
佐々木
基本はチェロ、フルート、バイオリンの3つの楽器に限定して、奏者を一人派遣しています。それで翌日対応に100%お応えできる体制を作りました。全国に演奏者がいて、楽器も小さいので特別な搬入も広い場所もいりません。急なご要望の葬儀に対応できています。
アシェルに登録している演奏者は、全員が音楽大学出身でオーケストラ経験があり、コンサートやエンタテインメントの世界で演奏活動を続けている、現役のプロ奏者です。日本を代表する交響楽団に所属するメンバーや、海外の著名オーケストラに客演する奏者も登録しています。演奏会でお客様を呼べるプロなんです。全員がそうした経験豊富なプロ奏者ですから、現場に応じて臨機応変な対応ができる点も強みです。
― 全員、音楽大学出身ですか! それほどの演奏者がそろっているとは思っていませんでした。ごめんなさい。
佐々木
あははははは。いえいえ、確かに楽器を演奏できる人は世の中にたくさんいらっしゃいますが、音楽事務所が契約して「演奏家として派遣するプロ」は、こういうレベルの方でないと務まりません。安心して頼んでください。
― 頼むときは、どのように依頼すればいいのでしょう? 曲数が決まっているとか、結婚式のようにリクエストをリストにして出すとか、いざ頼むとなれば、そのときにはご遺族も時間がないと思いますし…。
佐々木
ご心配されなくても大丈夫ですよ。そこにも、アシェルがいる意味があります。ご葬儀のとき、ご葬家様がどれだけお忙しいか、よくわかっていますから。
まず、楽器や曲をすべてをお任せいただく「ベースプラン」があります。音楽に詳しくなくても大丈夫です。葬儀と音楽のプロのアシェルにすべて委ねちゃってください。お寿司屋さんみたいですよね「おまかせで!!」って、感じです(笑)あとは、お店の大将に任せちゃって、ゆっくり出来ます。同じ感じです。
たくさんのご葬儀を経験していますので、大丈夫ですよ。アシェルが素敵な音楽を献奏いたします。
ご希望の音楽についてご要望がある場合は、アシェルの曲目リストから選んだり、他にもリクエストができたり、楽器を選べたり、演奏者の人数を増やしたりできる「オプションプラン」があります。この場合は、ご相談ください。最適なプランを一緒に考えることが出来ます。プロの目線でアドバイスをいたします。
また、急なご要望では難しいのですが、準備の時間やご予算をいただければ、ご希望の楽器編成、例えば歌手や雅楽の手配も可能です。普段はクラシック系、ポップス系のご依頼が多いですね。リストにない楽曲にも対応しますよ。「アニメの曲をずっと演奏してほしい」、「演歌がいい」、他にも和太鼓、サンバ、ジャズ等々、音楽事務所ならではの力量を発揮して、いろいろなジャンルの一流の人を手配できます。まずは、どうしたいのかを教えてください。あとはアシェルができることをご提案しながら、一緒に考えていけます。
― 頼もしいですね。まず不可能はないというこの力強さ!!
佐々木
えっと、たぶん不可能はあります・・・(笑)。でも、アシェルは音楽事務所のプロなので、ご要望をかなえることに一生懸命取り組みます。ご葬家様の想いをかなえるために会社を始めたのですから、そこは頑張ります!
故人との思い出をよみがえらせる音楽の力
―お客様はどのような想いで依頼されるのでしょうか? 特に印象深いエピソードがあればお聞かせください。
佐々木
「ご葬儀は、故人様を語る場」であるべきだと思っています。読経が故人様の思い出とつながることは、まずほとんどないと思うんです。でも、音楽は故人様の趣味や嗜好とつながることが多いので、生前の活き活きとしたご本人様を思い出す導きになります。
例えば、趣味でフラダンスをされていた方のご葬儀では、ハワイアンの生演奏と歌をリクエストされました。ゆったりとしたハワイアンの素敵な歌声に生演奏が流れる中、フラダンスサークルのご友人が多数参列され、他の葬儀では味わえないような幸せな心地に包まれながら、故人様とのお別れの時間を過ごされました。お人柄がとてもよく伝わるお式でした。
ウェルカムルームでマリンバを演奏してほしい、というリクエストでうかがったご葬儀は、まるで結婚式のようでした。「明るく見送ってほしい」との故人様のご意向を尊重され、大好きな曲が生演奏される中、参列者はウェルカムルームでシャンパンを振る舞われるところからご葬儀が始まるパーティで、とても印象に残っています。
最近では、映画が大好きだった故人様をお見送りするご葬儀で、映画音楽の生演奏を依頼されました。弔辞を贈られたご友人は、「弔辞を書いてきたけれど、まったく違うことを話そうと思う。今ここで素晴らしい演奏を聴いていたら、君についていろいろなことを思い出した。そのことを語らせてほしい」と、生前の故人様が目に浮かぶようなお話をしてくださいました。音楽を通じて思い出されるエピソードはけっこうあるようで、ご葬儀の場が思い出話で和やかになり、ご葬家も参列者もとても和んで喜ばれました。
「葬式の場は忌み嫌う場ではない」葬儀の新常識を音楽で作りたい
― 「光の庭」のエンディングドレスも、「その方を表現する美しい死装束があったらいいのに」という思いで誕生しました。故人様の思い出を語るきっかけとして、衣装の持っている力はとても大きいのです。同じ思いですね。
そして、「光の庭」もドレスをご提供して10年が経ちましたが、葬儀のスタイルやニーズも大きく変わってきているなと感じています。
佐々木
そうですね。それは同じように感じています。
戦後生まれの団塊の世代の方が、葬儀の形を大きく変え始めています。
葬儀の中身を吟味して必要ない部分を省いたり、新たな希望を取り入れたりしています。忌事(いみごと)、穢れなどのマイナスの感覚はもうありません。決まったパターンにもとらわれていません。今の30~40代の方が喪主様になる時代には、葬儀のスタイルはもっと自由になっているはずです。宗教や葬儀社から離れたお別れも新たに作っていくでしょう。
葬儀は、故人様の思い出を語る温かい場であってほしい。悲しみを癒すグリーフケアとして「お別れのセレモニー」はとても大切です。それは読経とセットである必要はなく、もっと自由でいいと思うんです。今は宗教から離れた「音楽葬」という言葉もあります。私たちは音楽を通じて、新しい葬儀の常識を作ろうとしています。プロが奏でる生の音色を間近で聴いていただきながら故人様の思い出を語りあい、大切な方との最期の時間をゆっくり穏やかに、和やかに過ごしていただきたいというのが、アシェルの願いです。
― アシェルさんのコンセプトは、愛に溢れていますね。最後に、ブログの読者様が演奏者の派遣をお願いするには、どのようにすればよいでしょうか?
佐々木
「小さなお葬式」の『奏でる生演奏』から手配していただくのが、一番わかりやすいかもしれません。もちろん、当社に直接お問い合わせいただいても構いません。
告別式だけでなく、「偲ぶ会」や「お別れ会」のような場にも呼んでください。ホテルでも公民館でもうかがいますよ。
― お付き合いのある葬儀社にお願いするときは、このブログを見せて「ここで頼んでほしい」と伝えても大丈夫ですか?
佐々木
もちろん大丈夫です。どちらの葬儀社様でも担当者の方と、直接アシェルが打ち合わせをします。ご葬家様はいろいろとお手配が重なって忙しいですから、葬儀社の担当者様にご希望を伝えてもらえれば、ちゃんと必要なポイントで献奏ができるよう手配します。葬儀のことはよくわかっていますから大丈夫ですよ。もちろん、具体的なお打ち合わせをご葬家様と一緒にすることもできます。たくさんのアイデアを持っていますから、お気兼ねなく相談してくださいね。
― 「葬儀の常識を変える、自由度を高める」というアシェルさんの目指す方向は、「光の庭」の考えと同じですね。そのことを改めてうかがうことができ、より一層確信いたしました。
本日はたくさんのお話をありがとうございました。
アシェル https://www.assurel.info
代表電話 050-3138-2424
小さなお葬式 奏でる生演奏 https://www.osohshiki.jp/plan/livemusic/
取材:2022年12月
文中敬称略
追記
「光の庭」主宰の杉下の母が、2023年元旦に急逝いたしました。
この取材の原稿をまとめている最中でした。
告別式になる「お別れ会」に、アシェルさんに演奏を依頼し、母を表現する曲を演奏していただきました。
会の様子は、改めて後日掲載いたします。
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